逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

10.神かくし.8

 三つの茶碗を咲良さんが見守れるように配置していると、
ひなことふたば、それに最所と京念がよいしょよいしょ、と掛け声も賑やかにボスの机と椅子を咲良さんの部屋に運び入れてきた。
 
「さあ、配置換えですよぉ! 一番怪しい人は部署替えです!」
 
「まあ仕事もしやすいでしょうし、お二人向き合っていただきましょうかね」
 
 そして私は「参」のシールが貼られた鍵を咲良さんに見せた。
 
「もうこの鍵いりませんね。捨てていいですか?」
 
 すかさずふたばが提案した。
 
「じゃあ『壱』の鍵も『弐』の鍵も捨てていいですか?」
 
「よかったら事務所の鍵も……」
 
 ひなこがそう言って言葉をつないだ。
 
「そして、よかったら私、四つの鍵を溶かして小さなアクセサリーを作りたいんですけど、いいですか? 
前に少しそんなことしてたことあるんです」
 
 ボスは頷き、私たちも賛成した。
 
 こうして事務所、そして倉庫の鍵はひなこの手によって小さな猫の形のペンダントとピンブローチに生まれ変わった。
 
 律儀なひなこは溶かす過程をしっかりと動画に収めてまで来ていて、
「他人行儀な……」とボスから愛し気に頭を叩かれていた。
その様子を見ていたふたばと私はなぜか胸が一杯になってじんわりと涙が浮かんでしまったけれど。
 
 そしてペンダントは私たちが、ピンブローチはボスと佐月さんがそれぞれもらうことになった。
 
 質素な素材から作られているにも関わらず、
それはなんともいえない味があって、
私たちはひなこの才能に驚いたものだった。
 
 こうして忘れがたい、思い出深い日々は過ぎてはいったものの、
セガワの行方は未だようとしてわからない。
 
 そして「いなくなった咲良さん」とその身分を証す茶碗にまつわる話を聞くのはもっともっと後のことになる。
 
 
つづく
 
 

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10.神かくし.7

 みんなを送り出す頃はすっかり夜になっており、塀のむこうでは二次会が開催されることになったらしく、賑やかに声を掛け合っている。
 
 マスターが去り際にウインクしながら
 
「表通りの面々が来るのは店始まって以来だよ」
 
 と笑った。
 
 佐月さんは私の手を握りしめ、抱き寄せて「ありがとう」と何度も何度もお礼を言ってくれた。
 
 立ち去りがたいであろうボスを残して私たちも部屋を出ようとしたとき、ボスから声がかかった。
 
「すまんが、事務所の机にあんたたちへ渡すつもりの茶碗がある。
持ってきてくれんか」
 
 私たちは頷き、各々が茶碗を持って部屋に戻った。
 
「咲良、お前がこちらへ来たときに大切に持ってきた茶碗じゃ。
お前の身分を証すものだと言っておったの。
わしはこれをこの三人に託したいと思うのじゃ。お前はどう思う?」
 
「うんうん、賛成してくれるかの?」
 
 咲良さんが持ってきた茶碗? 身分を証す品?
 
 これではますます受け取るわけにはいかない。
そんな大切な大事なものを……と私たちは辞退を重ねた。
 
 ボスは微笑み、咲良さんにウインクをした。
 
「ほれ、この通りじゃ。この茶碗を託すに相応しいと思わんか? この子たちならば見失うことはないだろう。
影をとらえて、影にとらわれて正体を見失うことはしないだろう。
そして今のわしだったら少しは守ってやることもできると思うのだよ。
歳を重ねた今のわしだったら……。
咲良、お前の意志を伝えていくことも……な」
 
 ボスの言葉は慈愛に満ちていて、私たちはこれ以上断る言葉を見つけることができなかった。
 
 これを受け取ることはもうすでに――昔からすでに決まっていたように思えたのだ。
 
 私たちがあの求人募集に応じて電話をしたことも――
しかもわずか一時間という受付時間に。
 
 この店が、咲良さんの意志が私たちを招き入れたのだとすら思えたのだった。
 
 私たちはその思いをありがたく受けることにした。
ただし保管場所は咲良さんの部屋だ。
そしてその茶碗にまつわる思い出もいつか必ず話してもらうことにして。
 
 その貴重な品々にふさわしい器になれたときに受け取りたいと、ボスと咲良さんに約束したのだった。
 
つづく
 
 

 

 

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10.神かくし.6

 その様子を見つめていた私は思いきって咲良さんの部屋に行った。
 
 ドアの前で小さく声をかける。
 
「失礼します。見てほしいものがあるの。あなたは見るべきだと思うの。
私は何も事情は知らない。
でも、何かがあってみんな傷付いて、打ちのめされて――。
でも時は流れて各々に公平に時は流れて。
暗闇の中で本当に大切な何かが見えてきたのだとしたら……」
 
「小さな猫がいなくなったの。
みんなとても心配して、その猫の帰ってくる道をみんなで作ったの。
あの方も、表通りの皆さんも。
みんな必死で頑張ったの。あなたへの償いみたいに」
 
 しばらくの沈黙の後、ドアはカチリと鳴った。
 
 私は部屋に入り、咲良さんに話しかけた。
 
「余計なことだとしたらごめんなさい。でも見てあげてほしいの。
人は変わる。思い出を積み重ねて人は学び、人は変わるの。
良いことも悪いことも……時が静かに沈殿させて心の上澄みが必ずできるの。
見てあげてほしいの」
 
「開けるね」
 
 分厚いカーテンに手をかけたとき、力を加えていないのにそれは自然に開いた。
そしてその後ろにあるレースのカーテンも。
 
「ありがとう」
 
 私は小さく呟いた。
 
 バルコニーの扉を大きく開いて私は中庭のみんなに晴れ晴れと大声をかけた。
 
「みなさーん! 咲良さんも加わりたいんですって!」
 
 全員が棒立ちになった。
 
 コップを持ったまま口を開けて放心しているボス。
涙が吹き出した佐月さんをマスターがしっかり支えている。
 
 スルメを口に咥えたままの会長、大きく目を見開いたままのひなこ、ふたば。
 
 その後「うおー!」と大歓声をあげてみんながバルコニーの近くまで走り寄った。
よろよろとボスが扉近くまで来た。
そのまま咲良さんの絵の前に来る。次は佐月さんだ。
 
 人々は一人、また二人と部屋に入った。
 
 ボスが愛しそうに絵の咲良さんを優しくなぞる。
 
「五十年ぶりじゃの。
お前はちぃとも変わっとらんの。あの時のまんまじゃの。
会えて良かった。話したいこと、いっぱいあったのじゃ。
謝りたいことがいっぱいあるのじゃ」
 
 いち早く絵の下にちんまり座った平蔵がボスを見上げて優しく鳴いた。
 
 その声を合図にみんなは泣き笑いし、佐月さんは平蔵を抱き上げて咲良さんに深々と頭を下げた。
一人、また一人と各々が絵の前で頭をたれて手を合わせる。
 
 最後に涙で顔をぐしゃぐしゃにした会長がボスと強く抱き合った。
そして二人は咲良さんの絵に深く深く頭を下げた。
 
つづく
 
 

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10.神かくし.5

 驚いたのは私たちだった。今まで何があっても裏へは行かないボスだったのだ。
それは多分咲良さんとの思い出がありすぎて辛すぎるのだろうと諒解していたからで、戸惑う私たちに「前の通りは頼むよ」と声を掛け、
棚の扉をするりと開けて出ていった姿を見送って私たちも雪かきを始めることにした。
 
 シャベルで雪をひとすくいする度にハセガワとの距離が縮まる気がする。
 
 黙々とシャッター通りの道を作っていると、表通りから一人、また一人とシャベルを持って人々が加わってきた。
会長がいる、副会長もいる。
雪女おばさんも山姥ばあさままでよたよたと雪をすくっていた。
 
 そして開いたシャッターからは一斉に猫たちが飛び出してきて綺麗に雪が片付けられた通りで追いかけっこして遊んでいる。
どんどん道ができていく有様を見て改めて人の力をしみじみ思う私たちだった。
 
 シャッター通りが綺麗に開かれていき、次は表通りの方も私たちは開けることにした。
 
「いやいや、こっちはわしらでやるから」
 
 と、みんなは遠慮したけれど、
 
「バンパイア三人娘の底力を甘く見ないでくださいよ!」
 
 ふたばが笑った。
 
 そうなのだ。『十歳』の私でさえ『娘』に分類されても不思議ではないくらい表通りの面々はみんな老人なのだ。
 
 一仕事終えて戻ってきたらしい最所が加わり、ほどなくして京念が加わり、るりこ姉さんが加わり、
塀の後方からはボスやマスターも合流して表通りも裏通りも綺麗に道が整えられた頃、佐月さんがにこにこ笑いながら
 
「さあ、みなさーん! 温かいお汁粉ができてますよぉ!」
 
 と声を掛けた。
 
 逢摩堂の、いつもは固く閉ざされているレンガ塀の木戸が大きく開かれ、ボスやマスター、そして佐月さんがみんなを招き入れている。
裏庭は綺麗にラッセルされ、テーブルが持ち出されており、
湯気が上がった大きな鍋やおむすびやサンドイッチ、コーヒー、お茶が並んでいる。
 
 それを見てみんなは大歓声をあげた。
中には慌てて家へ戻り、焼いた干物やら煮物、香の物を持ってくる人までいる。
 
 酒屋のおじさんは一升瓶を持ってきたし、山姥ばあさまは秘蔵のまたたび酒を。
雪女おばさんは得意の甘酒を持ってきた。
 
 みんなが車座になって大宴会になった。
その回りを猫たちが嬉しそうに走り回っている。
気が付けばボスと会長が隣り合って座っていた。
 
 一瞬どうなることかと心配した私たちだったが、二人は黙ってコップ酒をカチリ、と合わせ、互いに肩を軽く叩きあった。
 
 そして心配気に見守る私たちに親指を突き出してみせた。
永年のわだかまりが解けたのだろうか。時が二人の争いを鎮めたのだろうか。
 
つづく
 
 

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10.神かくし.4

 とりあえず、心配のあまり身も細る思いをしている黒猫家には知らせなくてはならない。
 
 これだけではハセガワの安否は定かではないが行方がわからなくなってから初めての情報であるし、また文面からはなんとなく凶悪さは感じられない。
首輪も綺麗なままだ。
だとしたら、なにか帰せない、帰したくない理由があってハセガワを留め置いているのではないだろうかと思われてならない。
駆けつけた黒猫家夫妻も同じ意見だった。
 
 賢いハセガワのことだ。危険を感じたらなんとしても脱出を試みるはずだ。
 
 それをしないのはハセガワ自身が何かを思ってその場にいるのではないか――と亭主はつぶやき、
とにかく無事を信じているし、きっと役目を終えたら戻ってくると自分に言い聞かせるように話し、
首輪を大切そうに持って帰った。
 
 その後ろ姿を見送り、最所、京念、るりこ姉さんも慌ただしく各々の仕事へ出かけていった。
 
 その間ずっと腕を組み、目を閉じて考え事をしていたボスが黙って立ち上がり、
棚の上にあれからずっと並べられたままになっていた三つの木箱――初日に私たちに祝いとして与え、その後私たちから返された形になっている三つの木箱を机の上に並べた。
 
 真田紐をゆっくりと解き、黄金布から茶碗を大切そうに愛おしそうに取り出す。
取り出した茶碗を三つ並べてボスはまた目を閉じた。
 
 私たちはそっと事務所を出た。なんとなく一人にしてあげたかったからだ。
気温がまた一段と下ったのだろうか。外は粉雪が降ってきていた。
さらさらと音もなく降り積もるこの雪は一層心を淋しくさせる。
 
「はぁちゃんが帰ってきたら……」
 
 ぽつんとふたばが言った。
 
「はぁちゃんが帰ってきたら雪で歩けないかもしれないから……
こっちまで来れないかもしれないから……」
 
「わたし、雪かきします!」
 
「そうだね、まっすぐ走って帰ってこれるように……ね」
 
 ひなこも泣き笑いをし、そう答えた。
 
 私たちは通りからこちら、そして裏もハセガワが通れるくらいの道を作ることにした。
何かをしていないと悲しさまで心に積もりそうだったのだ。
 
 事務所へ戻り、長靴、スコップ、帽子と重装備をした私たちにボスは驚いたようだった。
 
「ラッセル隊出動します!」
 
「あん?」
 
「ほら、はぁちゃん遭難させたら大変ですもん」
 
 それを聞いたボスは苦笑した。
 
「まったく、あんたたちは」
 
 そしてボスも立ち上がってスコップを握った。
 
「よし、じゃあわしは裏庭の道をラッセルしよう」
 
 
つづく
 
 

10月もよろしくお願いいたします♪

 

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10.神かくし.3

 さて、ハセガワがいなくなって三日目の朝。私は咲良さんの部屋のバルコニーへの戸を大きく開けてぼんやりと外を見ていた。
 
 以前だとそこかしこに猫たちが遊んでいた庭も、夜半から降った雪にすっぽり覆われ、一層寂しさを増すようだった。
 
「え?」
 
 思わず目を凝らした。つるバラのアーチのところに昨日までは目に入らなかった物――
何か赤いものが引っかかっているように見える。
 
 なんだろう、と大急ぎで長靴に履き替えて近付いてみると、それは猫の首輪であった。
真新しいそれを急いで手に取って確かめる。
 
 真っ赤な首輪に金色の鈴、洒落たネームタグには『ハセガワ 黒猫家』と記され、電話番号が書かれている。
そして首輪には小さな紙片が括り付けてあった。恐る恐る開けてみると
 
『ねこちゃんはげんきです。もうすこしいっしょにいさせてください。ごめんなさい』
 
 子どもが描いたものなのか、黒猫を抱いて座っているらしい少女の絵の横にたどたどしい文字でそう書いてある。
 
 私を追って同じく庭に、長靴を履いてズボズボと音を立てて出てきたひなことふたばもその紙を覗き込み、私たちは思わず立ち尽くした。
 
 黒猫を膝に乗せて座っている少女の絵。
この構図はあの絵と同じだ。
ボスが若かりし頃に描いた咲良さんと同じだ。
 
 ハセガワが本当に元気でいて、そして無事に帰ってくるのであれば申し分ない。
しかし、このメモを――この絵をボスに見せるのはいささか考えてしまう。
 
「あ! 足跡残ってないかな?」
 
 慌てて塀の外に出て地面を見てみたのだが、塀の外は真っ白な雪道となっており、足跡は残っていない。
となれば誘拐犯は夜半前にその首輪をアーチに引っ掛けたことになる。
少なくとも足跡が雪の上に残る前に。
 
「どうします?」
 
 ひなことふたばが私を見る。
 
「見せるしかないと思う」
 
 その言葉に二人とも頷いた。
 
 重い足取りで事務所に戻ると異変に気付いた男たちが私たちを待っていた。
黙って机の上に首輪とメモを置く。
 
 最所、京念、るりこ姉さんは首輪に。
そしてボスはその絵に、
私たちはボスに、と視線はそれぞれ痛まし気に注がれた。
 
つづく
 
 

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10.神かくし.2

 目撃情報はいくつかあった。
表通りの干物屋の前で香箱を組んでいたとか、稲荷神社の境内で思案にふけっていたとか。
しかしその辺りで情報は途絶えているのである。
 
 ハセガワを見知っている目撃者たちはその後逢摩堂へ行くものだと思っていたらしい。
 
 私たちの心配は募るばかりだし、黒猫家も臨時休業で一日ハセガワの帰りを待つのだという。
わずかな距離とはいえ公道も通るハセガワだ。
 
 るりこ姉さんはすぐ交通課に連絡していたし、その折に耳にした轢死体という言葉は悪い想像がそのままでふたばは泣き出し、ひなこも目が真っ赤になっている。
 
 ボスはそんな私たちを見て
 
「大丈夫、絶対にハセガワは元気でおる!」
 
 と断言した。
 
「平蔵を見てごらん。普段と変わらず、相変わらずやんちゃだろうが。
兄弟に何かあったらあんな元気でおらんはずじゃ」
 
 ボスのその言葉は妙な説得力があり、なぜか私たちは安心した。
 
 そして『私たちのはぁちゃん知りませんか?』というポスターを作り、
街の角々に貼ってもらえるように再び行動を開始したのだった。
 
 正月のイベントで一躍有名猫になったハセガワの行方不明事件はたちまち拡散され、たくさんの情報が寄せられた。
いつのまにか鬼太郎会長は『ハセガワ行方不明事件捜査本部』の看板を逢摩堂に掲げていた。
 
 事務所は寄せられた情報の整理に大わらわで、なんでも情報一件につきネコの手スタンプ一個、有力なものになると絵姿札を一枚進呈するのだという。
また、その情報により無事ハセガワを発見した暁には絵姿札十五枚揃えを二つ進呈、という懸賞をつけたらしく、
それを知ったボスは苦虫を噛み潰したような表情になったがいかんせんより多くの人たちが協力してくれているのは確かだった。
 
 しかし有力な情報が得られないまま虚しく時間だけが過ぎていく。
 
 通りの猫たちは各々実家の方で禁足を言い渡された。
 
 塀のむこうの平蔵は、その間何度も脱走を試みているらしく、佐月さんもマスターも両手が引っかき傷だらけだと京念が話していた。
事務所、店から、そして通りから猫たちがいなくなったことは私たちを本当に悲しくさせたのである。
 
つづく
 
 

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