玉響2
ではみいこさんから――と話を振られ、私は話を始めた。
「いくつかわからないことがあります。それはるり子姉さんが以前この店が――たしか色んな筋から狙われている、と言ったこと。あの後の露敏君の指輪事件やら逢魔時堂の都市伝説やらで、このことなのかなと納得はしてたんですけど……なんだかそんな程度――まあそれはそれで大きな出来事ではあったんですけど、これだけのことだったのかなぁって思ってるんです。もっと他に何かあるんじゃないのかって」
数年前に店にやってきた更科露敏はこの店のどこかに隠されているという指輪を店に探しにきたのだが、その際に「どっかのヤバい兄さんたち」に指示された、と話していた。
私のその言葉にひなことふたばも深く頷いた。
「たぶん、それは咲良さんの茶碗に関することじゃないのかなぁって」
その話にボスが――それは――と話そうと身構えたとき、絵の中の咲良さんが軽くボスを制した気配がした。それはまるで――最後まで話させてあげなさい――とでも言うかのように。
「三つ揃って価値がある――それはどういう意味なのでしょうか」
「なぜバラバラに持たせるように、って咲良さんは願ったのかな」
ひなことふたばがそう続いた。
「そうなんです。このあたりがよくわからない」
私たちがここのところ三人で話し合っていた内容はこうだ。
「今までも現れていたひなこ、ふたば、みいこはこの茶碗のことやその価値、それから――あの事件のことなんかも知っていたのですか?」
ひなこがそう話し、そしてもう一つ、と話を続けた。
「初めてここに来たとき、通りはまるで死んでいるかのようでした。みんなは私たちが来たことで通りが蘇ったと喜んでくれていて、それはそれで嬉しいんですけど――じゃあ、実際に何かしたかと聞かれたらなにも特別なことってしてないんですよね。何かを意図して動いたっていう自覚はないんです――私たち、何かしたのかな?」
「それと……実はずっと気になってるんですけど……」
ひなこの話の後で思いきって口を開いた。
「あの夜咄《よばなし》の日にいらしてた三人の方は、どういう方々なんですか? 父さんの知り合いだろうとずっと納得しようと思ってたんですけど、なんか引っかかって仕方ないんですよね」
「父さん、あの人たち感じ悪かった」
ふたばが言葉を被せたあとに、ひなこも頷いて
「なんか……違う世界を持ってるような感じがした」
と話す。
今まで気にはしていたのだが、なかなか聞けないままでいたことをようやく聞くことができ、少し心が楽になった気がした。
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玉響
最所とふたばが新婚旅行へ飛び立ってから一週間後、帰国した二人はかのハリー・ポッターグッズを山のように買い込んできたのでしばし私たちはもちろんのこと、通りの皆もそのコスプレを充分に楽しんだ。
猫たちも各々、作中に登場する四つある寮のシンボルカラーというのか、おしゃれなマフラータイプの首輪をもらってご満悦だったし、あの重い告白の後、しばらく体調を崩したボスも元気を取り戻した。
もっとも、元気になった大きな要因は実は咲良さんが夢に出てきてくれたのだと照れくさそうにボスが話していた。
――黙って優しくてを握りしめ、キスをしてくれた――と少年のように恥じらいながら語るボスを、咲良さんの絵の横に立たせ、全員で「ヒューヒュー」と冷やかした。心なしか絵の中の咲良さんも頬を染めたような気がしたのは、恐らく私だけではないだろう。
面子が全員揃ったところで、もう一度おさらいを兼ねてこの問題を分析してみることにする。
幸いなことに脅迫文といってもよいであろう例の文書を送りつけてきた輩は、今のところその後の動きはない。
そしてこの会議は常に咲良さんも交えて――すなわち咲良さんの絵の前で行うことにした。
「間違った方向へ進もうとするなら、咲良がなにかしらのアドバイスをくれると思う」
とボスが主張したし、私達にも異論はなかった。それどころか、いつの間にか私たちすら咲良さんが頷いたり、あるいは首を横に振ったり――といった様子を感じられるようになっていた。
なにより、咲良さんや他の娘さんたちがこの輩たちの動きを歓迎していないのだという確信が私たちの大きな力となった。
「この際、色々なことをもう一度はっきりさせましょう。お互いに持っている情報やら記憶やらをすべて洗い出し、共通認識にすることから始めましょう」
なんだか一段と男ぶりが上がったような気もする最所が口火を切った。
「同感です」
「そうね、その必要があるわね」
最所の提案に、京念とるり子姉さんも頷いた。
「各々、思いついたこと、あるいは違和感を覚えたことの洗い出しから始めましょうか。つまらない誤解に振り回されないように」
最所の提案に全員が頷く。
今まで、そうなのかな、こうなのかな、と納得してきたつもりのことも、もう一度真相を明らかにしていく必要がある。そうしないと彼の、あるいは彼らの目的すら掴めない。
数多の些細なできごとの中に必ずヒントがあるはずなのだ。
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Who Killed Cock Robin? 6
「それ以来咲良も、五人の娘たちもおらん」
「たくさんの犠牲者が出て変わり果てた姿で見つかった。しかし見つからんかった。五人の娘たちがいた置屋は、他の者は皆逃げたそうじゃ。五人の娘らは誰も見かけんかったと言うておった。――いや、自分の身と自分の家族のことだけで精一杯じゃったと。――あとで聞いた話じゃ。娘らの部屋は外から鍵がかかっておったそうじゃ」
「――それから時は止まったままじゃった。わしも、そして通りの皆も。今でも咲良の『嘘つき』の声は忘れられん。その声は、わしはもちろん通りの衆にとっても永い間心の枷になった」
ひなこが立ち上がり、黙って厨房へ向かった。きっと何か温かい飲み物を用意するだろう。男たちは黙ったままだった。
私は今は父と呼ぶ人の手に、自分の手を重ねることしかできなかった。
るり子姉さんが冷静な声でボスに尋ねる。
「この封書の差出人に心当たりはありますか?」
京念も続いた。
「駒鳥……という言葉に心当たりは?」
その二人の問いかけにボスは頷いた。
「あれらは……こまどり隊と呼ばれておった」
「雪女おばさまにコツを教えてもらったんですけど、おいしいかな?」
ひなこが大ぶりの筒茶碗を持って部屋へ戻ってきた。銘々の前に置いたその中身は熱々の甘酒だ。
ひなこが雪女おばさんに教わったという甘酒の優しい味を静かに味わい、しばらくしてるり子姉さんがまた口を開いた。
「この話はみきくん――最所先生にも共有してよろしいですね」
ボスは頷いた。
「ふたばさんにも?」
京念が念を押す。その問いにボスは苦しげにまた頷いた。
「私たちは家族です。もう一人で苦しまないで」
「咲良さんはこんなこと、望んでいない。こんな――こんなことをするものと戦いましょう」
私とひなこがそう囁き、先ほどまで静かに香箱を組んでいた小雪がそっとボスの膝に乗り、にゃん、とボスの顔を見上げて優しく鳴いた。
そしてこれが、次なる事件の序章だった。
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Who Killed Cock Robin? 5
「あの夜――」
少しの沈黙が訪れたあとにボスはまた口を開いた。
「山が崩れた」
「そうじゃ。予兆はあった。昼間から山鳴りがしとった。長老たちはこんな音は聞いたこともない、逃げろと言うた。若いもんは――わしらは、大丈夫じゃ、ちゃんと土留めもしてある、と言うて気にもせんかった」
「――咲良は、咲良は心配した。他の娘たちは――そうじゃ、あのひと飲みに崩された斜面にあった置屋に住まいしとったから。あそこは危ない、こっちに連れてきてくれと、わしに縋りついて頼んだ。わしは大丈夫じゃ、と。心配するな、と。ちゃんと向こうは向こうで避難しとるからお前はここにいろと――まずお前が無事でいろと伝えた」
「――咲良はそれでも言い募った。他の誰が助けてくれるのか。あなたが行かないのなら自分ひとりでも行くと。いつも黙ってわしの言うとおりにしてきた咲良とは思えぬくらい一歩も譲ろうとはせなんだ。そして咲良はわしに、お行きなさい、と命令した」
「わしは……わしの若さと驕りがその圧倒的な態度に、咲良のその気高さに猛反発したのじゃ。――そう思わせてくれ。そして、そしてわしは決して言うてはならぬことを言ってしまったんじゃ」
ボスはそこまで言って言葉を一瞬詰まらせたが、わずかに訪れた静寂のなかで、声を絞り出すように続けた。
「お前なんか金で買われてきたくせに! わしがお前を買ったのだ。お前に自由なんかない。――そうじゃ、わしは言うてしもうた」
ボスはそう言い、すすり泣いた。
私たちは誰も言葉を挟めなかった。まるでその運命の日の、その時間に空間がタイムスリップしたかのようだった。
私たちは時空を越え、存在しない存在のままで息をするのも憚れるような想いでこの光景を見つめているようにさえ思われた。
「わしは決して――決してそのときの自分を許せん」
「咲良の顔色がさっと白くなったのを覚えておる。そして真っ直ぐにわしを見て――嘘つき――と叫んでそのまま嵐の中を飛び出していった。もちろん後を追ったよ」
そしてまた空白な時間が訪れた。ボスが次の言葉を紡ぎ出す僅かな時間が途方もなく長い時間に感じられる。
「いや。正直に言おう。わしは正気に戻るのにしばらく時間が必要だったのじゃ。――放っておこうと。あれは頭を冷やしてきっとすごすご戻ってくる。そして許しを乞わしてやろうと――そんなことを考えたのじゃ」
「そのとき、今まで聞いたこともない音――地鳴りだけではない。まるで馬鹿でかい化物が声の限りに吠えるような音が聞こえた。その音を聞いてようやく正気に戻って後を追ったのじゃが、外は真っ暗闇じゃった。気が違ったように咲良の名前を呼びながらわしは走った。その様子を見た通りの衆がわしを羽交い締めにして止めた」
「さっき、咲良が娘らを助けてやってくれと同じように、まるで気が違ったかのように来たと言う者もあった。止めたのだ、と言うた。あの子らはちゃんと避難しておる、大丈夫じゃ、と言うたと。――じゃ、なぜあなた方はここにいる? なぜここにいて知らん顔をしている? 家族ではないのか? そう言っていたではないか――咲良はそう言うたそうじゃ。みんな、みんな嘘つきだ、と」
「止める手を振り払って咲良は去った。声の限りに呼び止めたのだ、と皆は口々に言った」
「そのとき、大きな雷鳴が響いた。追いかけようとしたわしは石に躓き、頭を打ったらしい。そしてそのまま気を失って――気が付いたときには、何もかもが終わっておった」
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Who Killed Cock Robin? 4
あれらがどんな経緯で売られてきたのか知っとるもんはおらんかった。
この地には流れに流れてきたのじゃろう。その世界ではよくあることじゃった。
しかし、咲良にはもちろんのこと、あの娘たちもそんな世界にいたにも関わらずなんとも言えぬ品格があった。
――そうじゃ、泥沼の泥に染まらぬ蓮の花、という風情があった。
しかし、しかしじゃ。人の心は恐ろしい。わしらはこの品格が気に入らんかった。そこが一番惹かれた部分じゃったのに、わしらが持たぬこの品格が気に入らんかったのじゃ。
特にわしは鼻についたのじゃ。その美しい蓮の花びらに思いっきり泥水をかけてやりたい。所詮金で取引されてきた身じゃと言ってやりたい。そんな思いをなぜ持ってしまうのか――わし自身がわしにやりきれん思いじゃった。
わしはほぼ強引にと言ってもいい形で咲良を引き取った。身請けというやつじゃ。そうするより他に方法はなかった。学生の身であったが、わしには自由にできる金があった。
咲良は他の娘たちと離れるのを嫌がった。他のものもそのうち必ず引き取るから、とわしは嘘をついた。他の娘たちまで自由にするつもりは全く無かった。
むしろその者たち離したかったのじゃ。昔のことなど忘れてほしかったのじゃ。咲良の体は清らかじゃ。その引き換えに周りの娘たちが代わりとなって守り抜いたのじゃと聞かされておったが、わしは確かめることすら怖かった。
それほどまでにわしは咲良を愛しておったのか。あるいは単にわしの所有物として手元に置きたかったのか。あるいは人形のように飾り立て、一人で楽しみたかったのか。一人の女を幸せにしてやったという思いに満足したかったのか。多分どれもこれも、じゃった。
わしはあれを飾り立て、自分好みの部屋やら家具やらを与えた。それらを咲良は微笑みながら受け取ったが、宝石もドレスも身につけることはなかった。人形のように、そのときはわしの言うとおりにした。
でも気が付けばいつも質素な黒のブラウスやらセーターになった。あの絵の通りじゃよ。
わしは何をすれば咲良が喜んでくれるのか、わからぬままに空回りをしておった。しかしそのうちに少しずつわかってきたのは、あれがゴテゴテと飾り立てたものを嫌う、ということだった。
あの部屋の、あの家具はほぼ咲良が選んだものじゃよ。
みいこさんが「なんとも言えない品格がある」と言ってくれたとき、わしは本当に、どう言ったらいいか――本当に――。
そこまで話して、ボスは鼻紙を引っ張り出して大きく鼻をかんだ。続いて私も。その次にひなこも。
「わしは、あれが――咲良が、わしを好いてくれておるのかどうかもわからなかった。そうじゃ、わしは自信がなかった。だから――だから闇雲に物を与えることしか選べんかった」
夜は深々と更けていく。
私たちはボスの話を止めなかった。今、ボスはようやく言葉を紡ぎ出せたのだ。
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Who Killed Cock Robin? 3
「駒鳥? 駒鳥じゃと?」
ボスが呻くように呟いた。
「ひなちゃん、すまんがそれ全部読んでおくれ」
はい、とひなこがその歌詞を読み始めた。マザー・グースの中では異例なほど長いのだ。
朗読を続ける途中でボスの顔色が悪いのに気付いた。
「父さん、顔色悪いですよ。お疲れでしょう? 休みますか?」
小声でそう聞いたのだが
「いや、大丈夫だ」
と目を閉じたまま答える姿が妙に弱々しく、気になって仕方がない。
「――空の小鳥は一羽残らず溜め息ついてすすり泣いた」
ひなこの朗読が静かに終わり、しばらくの沈黙が訪れた。
「……話しておきたいことがある」
まるで時が止まってしまったかのような室内で、ボスが静かに呟いた。
「また今度でも――今日はお疲れでしょう」
心配するひなこと私の言葉を制止し、ボスは京念とるり子姉さんに
「あんたらも聞いておいてほしいのじゃ――いわば立会人じゃな」
そう言って、ボスは言葉を紡ぎ出すようにぽつりぽつりと昔語りを始めた。
***
なにから話したらいいのだろう。
もうかれこれ半世紀も前のことになる。
咲良と、そしてあの娘たちのことをわしも、そして通りの皆も忘れたことがなかった。
あれから随分探した。現場となった土砂の中はもちろん、山の中も――果ては鉄砲水の流れ込んだ川の上流まで。
――わしは、わしらは捜したんだよ。でも見付けることはできんかった。あれらは消えてしまった。そう、本当に消えてしまったのじゃ。
亡骸を見付けるのは辛いじゃろう。だが見付けられないのはただただ苦しいのじゃ。わしは、そしてわしらは段々と寡黙に、疎遠になっていった。口を開ければお前のせいだ、と互いに罵りあうのが恐ろしかったせいもある。
そうじゃ、わしは咲良に到底許されんことをした。
今のわしだったら絶対にすまいことを咲良にした。言うてしもうた。若さだけのせいにはすまい。
驕っておったのだよ、わしは。わしの器は貧相だったのじゃ。
祖国から売られたあれらの悲しみを、わしは理解しきれなかった。そんなもの、捨てればいいとわしは思った。お前たちをそんな目に合わせた、そんな連中のことなど忘れてしまえと思った。
この国で、この地で新しく生まれ変わって生きていけと、幸せにしてやると、どんな贅沢もさせてやると、望みはすべて叶えてやると。
通りの皆もあれらには優しかった。その一つには、通りの繁栄はあれらのお陰でもあったし、なにより皆気立てがとかったのじゃ。
昼間なんかは通りの皆にもよく馴染んで、時々店番まで買って出ておった。
片言の日本言葉が可愛らしいと言って、皆がわしらは仲良しじゃ、わしらはあんたらの家族みたいなもんじゃ――と言うておった。
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Who Killed Cock Robin? 2
「うーん、なんともはや」
ボスがうめいた。
「こりゃまた疲れるもんじゃのう。まだこの後二回もあるのか。いやいや、楽しみなことじゃな」
それを聞いたひなこと私は噴き出した。
「父さん、私たちは――いえ、少なくとも私は当分行きませんから」
「私も――ごめんなさい。多分行きませんからね」
「いやいや、まあ、嬉しいような――寂しいような、じゃの」
「あ、そうだ」
何かを思い出したのか、ひなこが急に立ち上がる。
「お祝い箱の中、一応検めておかなくっちゃ!」
そうだった。途中忙しくなった私たちは、とりあえずお祝いのメッセージやらお祝儀やらを入れてもらうために、箱を設置していたのだ。
きちんと検めて、失礼のないように――最所とふたばが恥をかかぬように、困らぬようにしておかねばならない。
持ち上げてみると箱は思いの外ずっしりと重く、二人がかりでようやく運べるほどだった。開けてみるときちんと熨斗がかかったお祝儀袋やら封筒やら、あとは小銭がジャラジャラと大量に入っているのは賽銭箱と間違えたのだろうか。そういえば宴の最中に二礼二拍手一礼の姿をかなり見かけたような気もする。
「この小銭は後回しにして……とりあえずこちらの方を開けないと」
税理士と刑事にも仕分けに立ち会ってもらう。これ以上の立会人はいないだろう。
しかし、仕分け作業を始めて程なくしたときである。祝儀袋やお祝いのメッセージを書いたカードに紛れて一封の不祝儀袋――すなわち香典用と思しき袋が出てきた。
あまり趣味の良いジョークとは思えない。思わずその袋を凝視していたのだが、横からさっとるり子姉さんの手が出てきて袋をつまみ上げた。
一度舌打ちをして開封すると、黒い台紙に銀色のインクで書かれたメッセージカードが出てきた。
「――なに、これ」
恐る恐るカードをつまみ上げると『Who Killed Cock Robin?』とだけ書かれている。
「フー キルド コックロビン――?」
「駒鳥は誰が殺した?」
るり子姉さんと顔を見合わせる。
「これって……あ、マザー・グースだ」
ひなこがそう言ってパソコンで検索を始めた。
「そうです、マザー・グースの『誰が駒鳥殺したの?』ですね」
――誰が駒鳥殺したの?――それは私と雀が言った――
――その血は誰が受けたのさ――それは私と魚が言った――
この奇妙な歌詞は私も薄っすら覚えている。たしか皆で葬式の段取りを決めているような内容で、相変わらず不思議な世界観だと気にも留めていなかったが。
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