逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

語り継ぐもの3

 

 そうこうしている内にテーブルにひょいと飛び乗った小雪が茶碗の中の水をちょろちょろと舐め始めた。


「こら小雪。ちゃんとお水茶碗持ってるでしょ。そっちのお水を飲みなさい」


 そう言いながら慌てて小雪を抱き上げた私はふと何かが心に引っかかったような気がした。


 猫の食器――どこかで、いつだったか私はこんな景色を見た。あるいは思ったことがある。あれは何だったろうか――思い出せない。


「父さんは――」


 二つ目の練り切りをさくっと黒文字で切りながらふたばが口を開いた。


「父さんはこの茶碗、他の人に見せたこと無いって――あの夜咄以前に見せたこと無いって言ってましたよね。と、言うことは追っ手はどれがどれだかわかってないはずなんですよね」


 ふたばの言うとおりなのだ。私たちもこれに似たものを専門書やインターネットで検索して、恐らくこの類だ、だとしたら……と心底臆した次第でこの茶碗そのものを図鑑などで見たわけではない。


「と、言うことはですよ。『あの人たち』は何で判断するんですかね」


 確かにそうだ。誰も見たことがないものに対して本物、偽物の判断基準はどこにあるというのだろうか。


「『あの人たち』の中にすごい目利きの専門家がいるのかなぁ」


 ひなこはそう呟き、あ、そうそう、と厨房へ向かったと思うと紙袋を持ってきた。


 紙袋の中から新聞紙に包まれたものを取り出し、ごそごそと包みを開きながら


「調子に乗ってまた作ってみたんだけど、どうでしょう」


 とテーブルに並べ始めた。


「これは父さん用、これは咲良さん用」


 ひなこが並べていたのは夫婦茶碗で、若竹色と桜色の釉薬の妙というのか、いい具合にとろりと混ざり合ってなんとも柔らかな色合いになっている。


「それと、これは……」


 後から紙袋から取り出したものは件の茶碗を精巧に模したものだった。


「父さんにその当時の土や釉薬の成分なんかを聞いて、ちょっと研究してみたんだけど――どうかな」


 そう自信なさげに茶碗を見せるひなこと、その茶碗を手に取って感嘆しているふたばに、


「ねえ、ちょっと相談がある。とりあえず! とりあえず二人とも耳貸して」


 二人は私の提案に黙って親指を突き出した。目がキラキラしている。仕事師の目だ。


 その話をしたあとに三人で咲良さんのもとへ急ぎ、咲良さんに許しを請うためにこの話を絵の中の咲良さんに話すと、咲良さんは頷きつつ、ぷっと吹き出した。(ような気がした)


「四人だけの秘密ですよ」


 私たちはそう言って真剣に頷きあった。いつの間に部屋に来ていたのだろうか、足元で小雪も一声鳴いた。


 そう、これはさっき小雪があの茶碗から水を飲んでくれたから思いついたのだ。――猫の茶碗、猫の皿――。


「五人だけの――女だけの秘密ですよ」


 と訂正し、言い直した。

 

 

 

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語り継ぐもの2

 

「いいのぉ」


 しげしげと作品を見るボスにひなこは「単なる道具ですよ」と恥ずかしがったが、


「ひなちゃん、みんな道具として作られるんじゃよ。初めっから名品と呼ばれるものは無いんじゃないかの。作り手の目的は元々はそういうもんじゃないかの」


 と語ったボスの言葉を私は深く胸にしまった。


 確かに後世まで残るような品であっても、作り手が初めからそのことを意図していただろうか。


 その時の土の状態やら釉薬の調合、天候や湿度、火の勢いやら実に様々な条件がまるで神からの贈り物のように重なって結果が出るのではないだろうか。元々は誰かのために作りたい、その人が便利に、そして喜んでくれるように――という至極単純な目的だったに違いないのだ。

 

 

「さてと……」


 咲良さんに断って部屋から持ち出してきた茶碗を再び見つめた。


「雪月華、か」


 その銘はボスがつけたものであり、茶碗の内部にある見事な斑紋からイメージしたのだといつか語っていた。


 たしかに雪の結晶のようにも、月の青い光のようにも、花びらが散っているようにも見えるそれには魂が奪われるような妖しげな美しさを放っている。


 しかし三つの茶碗を並べ替えたり裏返したり、あるいは文様を模写してそれを重ね合わせてみたりしても、文字はおろか図形らしきものも浮かんでは来ない。


 ここのところずっと古書やパソコンで故事やら伝説の類を調べているのだが、手がかりは五里霧中の状態なのである。


 ふと思いついて各々に水を注いでみた。水を入れた状態で光が屈折してなにか新しい文様が出てこないとも限らない。


 私たち三人はこの茶碗に関して二つの信念を持っている。それは咲良さんにも確認済みだ。


 一つは私たち以上にこの茶碗の持ち主として相応しい者が現れたら当然の行いとして譲り渡すこと。そしてもう一つは本来の道具としての目的を全うさせることだ。この二つがはっきりと定まっているので、当然それ以外の目的でこの茶碗に近付く者は認めることができないという単純明快なものだった。


 だからと言ってはなんだが、以前のように触れるのもおっかなびっくりの状態からはかなり脱却しており、大切なものであるという意識は変わらないのだが、もっと気楽に、身近なものとして触れられるようになった。


 いわば亡くなった母の形見のような思いとでも言うのだろうか。血の交わりがあるものとして扱ってあげたいと気持ちで向き合うということなのだった。


 さて、水を注いだ茶碗に光を当ててみたり、あるいは斜めにしてみたりとまたもや実験を繰り返してみたがやはりヒントらしきものは見付けることができなかった。

 

 

 

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語り継ぐもの

 その後も話し合いは何度も開かれた。というよりかは、今やほとんど夕食を共にしている我々だったので食後のコーヒータイム、デザートタイムは咲良さんの部屋で、というスタイルが定着したに過ぎないのだが、みんなで車座になってはああだこうだ、と話し合うと時として不安になる心も穏やかになっていく。


 るり子姉さんを中心とするその筋の方々が捜査を進め、磐石の布陣となっている安心感もあってこそのことだが、それ以上に強い連帯感が私たちを強くしている。


 そんな中、私たちは茶碗に秘められた謎解きに全力を尽くしていた。


 咲良さんの一族が脈々と伝えてきた三つ揃いの価値とは一体何なのだろう。その一つ一つでさえ価値がありすぎる物らしいのだが、三つ揃えばどういった奇跡が起こるのかということがわからずにいた。


 形状や使用されている釉薬など、その美術的な検証についてはボスが永年に渡って研究を重ねている。元来古書専門だった逢摩堂が骨董まで手を拡げたのも、その謎を解明するためだったらしい。


 咲良さんも首を傾げるばかりでその「なにか」はわからない様子だった。

 

 

「一体なんなのかなぁ」


 とっくに何度も検索をしているパソコンの画面を穴が空くほど睨みながら、ひなこが冷めきったコーヒーをすする。


「あ゛あぁぁぁぁ」


 分厚い専門書を読みふけっていたふたばが思いっきり背伸びをした。


「気分変えよう! お茶にしましょ! 今日はおいしい練り切りがあるからお抹茶でも点てますかね」


 専門書を閉じ、厨房へ身軽に駆けていった。


 今日はボスも最所と出かけており、京念も多忙らしく顔を出さない。るり子姉さんは本庁で会議ということで昨日から上京しているのでお三時に三人だけというのは久し振りだった。


 ふたばが点ててくれた抹茶の、その茶碗はひなこが焼いたものだ。ここのところ彫金から焼き物まで学んでいるひなこが、はじめに三人お揃いの茶碗を作ってくれたのである。


 私たちはすっかり気に入って、本来の用途以外にもちょっとした汁物を入れたり丼として使用したり、と使用頻度が高い。


 雰囲気は例の雪月華と名付けられている茶碗にも似ているのだが、どこか冷たさを感じさせる件の名品より、もっと温かく、掌に馴染むような気がする。その茶碗をボスが羨ましがり、次は自分と咲良さん用の茶碗も作っておくれと笑っていた。

 

 

 

 

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玉響6

「そんなことはない!」


 私たちが叫ぼうとしたとき、会長がふと顔を上げた。


「ん?」


 怪訝な顔で私たちを見る。


「え?」


「今誰かわしの背中を撫でたかの?」


「いえ……」


 会長の椅子は私たちと少し離れた場所にあり、もちろん後ろには誰もいない。虚ろな表情を浮かべたまま視線は咲良さんの絵に留まった。


 咲良さんの絵を見た会長は急に目を見開いたかと思えば目をこすり始めた。


「逢摩――いや、逢摩さんよ。いよいよわしもヤキが回ったかの。今――今咲良さんがわしを見て優しく頷いたように見えた」


 その言葉を聞いた私たちも一斉に絵を見た。絵から私たちも咲良さんのメッセージというのか、想いのようなものを受け取ったような気がした。


 絵の中の咲良さんの表情は温かく、慈愛に満ちており、私たちの心を奮い立たせるものだった。

 

 

 それから二、三日後、緊急に旧町内会の会議が咲良さんの絵の前で開催されることになり、ここ最近のことの次第が説明されることとなった。


 どの範囲まで話すかについては私たちはもちろん、会長、そして佐月さんとマスターも交えての話し合いが繰り返されたことは言うまでもない。情報には必要なものと不必要なものとがあるのだ。


 初めのうちこそ旧町内会の面々は怯えたり打ちひしがれたりしていたが、会長が咲良さんからのメッセージのくだりを話したことで全員がまっすぐ顔を上げた。


 なによりも咲良さんが、そして娘さんたちがもう許してくれているのだという思いが皆の心を勇気づけたのだった。


 そして会議を進めていくうちに口々に――わしらは戦うぞ! そんな奴らに負けてなるものか!――と決意をみなぎらせて帰ったあと、私とひなこ、そしてふたばは父に話したいことがあった。それは初めて咲良さんの絵を見たときのことである。


「この人は恋をしているのねって。この人は、この絵を描いた人と想い合っているのねって」


 咲良さんの絵を見て、私たちはこう思ったのだ、とボスにそう話した。


 それを聞いたボスは顔をくしゃくしゃに歪め、肩を震わせて号泣し始めた。それはまるで永年の想いを絞り出すように。

 

 

 

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玉響5

 そのようなことを話していると、店のドアが開く音が聞こえ、店番の猫たちの甘えるような声も聞こえた。


「ごめんなさいよー!」


 どうやら来客者は鬼太郎会長のようで、私がはーい、と飛び出す前に会長はすでに部屋まで来ていた。


「おおう、まあ揃いも揃って揃っとる。お、新婚さんも揃っとるな」


 相変わらず賑やかな人だが、咲良さんの絵の前で手を合わせ、頭を垂れることは決して忘れない。


 差し出された椅子にどかんと座り、ふたばが用意したお茶を一口すすると、言いにくそうに口を開いた。


「あのなあ……。実は、こんなもんが通りのもんのところに来とってなぁ……」


 そう言いながら一緒に持ってきていた紙袋から大きなビニール袋を一つ取り出した。その中身を見た私たちは全員言葉を失った。


 袋の中身は例の香典袋で、会長が机の上に並べるとその数は全部で十三通ある。無言のまま中を開けるとまたもや黒い台紙に「Who Killed Cock Robin?」の文字があった。その文字の下には日本語で「忘れるな」と書かれている。

 

 

「なんじゃあ、これは。質の悪いイタズラじゃな、とはじめは思うておった」


 先ほどまで賑やかな雰囲気を一緒に連れてきたかのような会長が重々しく話を始めた。


「そしたらやまんばばあさまがやって来たわい。これと同じ紙持って『これなんて書いてあるんじゃ。横文字はわからん』言うてな。ばあさまんとこにも来たんかい、ちゅうことになって隣も聞いてみた。そしたら隣にも来とる。その隣のクレープ屋に聞いたらそこは来とらん。その隣の土産もん屋にも来とらん。次々に聞いて回って出てきたんがこれだけじゃ」


「よう考えたら――古くからここにおるもんばっかりじゃ。そしたらばあさまが駒鳥と言うたらあの娘らのことじゃないんかと。こまどり隊って呼ばれとったじゃろ、と。それで来たんじゃ。――逢摩、お前さんとこにも来とるか?」


 その問いにボスだけではなく、私たちも頷いた。

 


「やっぱりか」


 息を吐くようにか細い声でそう呟き、会長がうなだれた。


「わしは……わしはようやく許された、ようやくわしらは世間に顔を上げられるようになった――と思うとった。甘かったかのう……。まだあかんかったのじゃろうか」


 鬼太郎会長のすすり泣きが聞こえてきた。いつも強気の肩が震え、いつもより小さく見える。

 

 

 

 

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玉響4

「やっぱり、それほどの価値があるんだ……」


 私たちは件の茶碗が納められた古ぼけた箱を見つめた。


 価値があるとは聞かされていたものの、それがどれほどのものなのかを実感する機会があまりなかった。


 しかし国際的に狙われているということを聞かされた以上は、その価値を改めて感じざるを得ない。


「それだけではないかもしれん。実は……」


 その話を聞いていたボスが口を開いた。

 

「まだあるのじゃ。三つ揃って価値がある、と咲良は言うた。それがどういう意味かわからず、咲良に尋ねたが昔話だ、と笑っておった。その頃は骨董品やら焼き物やらには興味がなかったしあまりに気にも留めんかったがの。――次にその話になったのは、咲良がひどく体調を崩したことがあっての、そのときのことじゃった。元々体が丈夫とはいえんのじゃが高熱にうかされて、わしは気が気じゃなかった。そのときに聞いたのじゃ」


「咲良、話してもええかの?」

 

 ボスが絵の中の咲良さんに問いかけた。咲良さんは絵の中だが、その問いかけはまるで本当にそばにいるかのようなそれで、絵の中の彼女が頷いたような気配を私たちも感じた。


「――もし私が死んだら、この茶碗は別々に、別々にしてほしい。単なる古ぼけた茶碗として売ってもいい。あげてもいい。捨ててもいい。――ただ、三つ揃いのものとしては終わりにしてほしい、と。なんでじゃ? と聞くとあれは必死の目をして言うておった」


「これは祖国に伝わる言い伝えだと。この茶碗が祖国を救う宝の在り処を示す地図になっておるのだ、とわしは聞いた。――そんな言い伝えまで残っておるものをバラバラにしてええのか、と聞くと、それでいいのだと。そのために随分と無駄な争いやらたくさんの血が流れたのだから、もういいのだ、と。この茶碗を、茶碗として気に入ってくれた人が持ってほしい。そんな風にどこかに埋もれればいいのだ、と言うた。――この茶碗についてわしの知っとることはそれだけじゃ」


 ボスのその話を聞いてしばらくの沈黙が訪れた。その価値もわかった上でこの茶碗を狙っているのだろう。そうだとしたらるり子姉さんが言うとおり、実に厄介な相手だ。そのようなことに考えを巡らせていると隣でまだ気になることがある、という顔をしたふたばが口を開いた。


「あの、あの――えっと、じゃあひなこ、ふたば、みいこの謎は? これにもなにかメッセージがあるの?」


「あん?――あれか。あれは咲良に懐いとった近所の野良猫の名前じゃよ。――ほれ、咲良の膝におる黒猫がみいこじゃ。みいこが産んだ猫がひなことふたば。で、その孫の孫の孫の……ぐらいがハセガワと平蔵じゃ」


 先程までの重々しい雰囲気とは打って変わってあっけらかんとボスが答えた。


 正直私たちはまた椅子からずり落ちそうな気分になった。まさか咲良さんの膝にいる黒猫が私たちの名前のルーツだったとは、と思って件の黒猫に目をやるとなんだか得意げな表情をしているような気がした。

 

 

 

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玉響3

「こんなところでしょうか。他にある?」


 私はそう言って両隣を見る。それを聞いたひなことふたばは口々に、私もそう思ってました、と応じた。


 その様子を見ていた男たちは目で相談し合ったようだった。ボスが頷き、るり子姉さんが口を開いた。


「その内のいくつかは私から説明するわ」

 

 

 そう言うとゆっくり私たちの顔を見回し、少しの間を置いて言葉を続けた。


「簡単に言うと、ここ四、五年――不可解な事件や事故が続いたのね。はじめこそ単なる偶然が重なったもののように思われたその一連の出来事が、内偵を進めていく内にどんどん的が絞られてきたかのようにこの近隣県に頻発してきたの。――そしてどうもこの地方がターゲットなのではないか――と思われてきたのがここ二年ばかり前。すなわち露敏の指輪事件のころね。そして事件や事故は凶暴性こそ低いとはいうものの、狙われる人物や年齢、職業――あるいは業種や時代背景が似通っていたの」


 そこまで話を聞いて、思わずごくりと生唾を飲み込む。まるで自分たちからは遠い世界、まるでテレビドラマのワンシーンを見ているかのような話だったが、るり子姉さんの話は続いた。

 

 

「実はね、私こう見えてもいわゆる『キャリア組』なのよね。本庁の特命ってやつ。――やぁーだ、びっくりしないでよ。ついでに言っちゃうと初めて来た日の変な集団覚えてる? あいつらもそう。同期や後輩連中。まあ――色々あるのよ」
「ああ、それと夜咄の日に来てた目つきの悪い連中――あれもそう。管轄は違うけどね。彼らはいわゆる国際犯のほう。――ガタイいいの、前来てたでしょ? カメラ小僧よ」


 るり子姉さんの説明に私たち三人は椅子からずり落ちそうになった。内容をうまく飲み込めないままでいるが、あの日から違和感を覚えていたことの一つが解消されたことは間違いないらしい。


「まあそういうわけよ。で、何が目的なのか初めは見当がつかなかったし単なる偶然で片付けられるはずだった一連のものが一筋縄ではいかないと結論づけられたのは、バックに某国の有名な窃盗団が関わっていることがわかったの。その上彼らは私たちより早く的を絞ってきているらしいってこともね。――で、私の登場ってわけよ」


「あいつらが狙っているのは逢摩堂……多分あの茶碗に間違いないと思う。敵は実に厄介ね」

 

 

 

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