逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

四月馬鹿.4

 ボスがその箱を受け取り、開いて「これですじゃ」とごく自然に手渡そうとしてその手が止まった。


「ん?」


 急いで残りの二つの箱も開く。


「ん?」
「んん?」


 ボスのその一連の動きの間に柊氏は最所に開かれたそれを見て


「すばらしい……」


 と息を呑んでいた。


「まさに至高! 人類が生んだ奇跡の宝物ですな。眼福とはこのことです。これは守らなければならない! 俄然、ますますやる気になりました」


 柊氏は熱を帯びた声であとの二つも飽かず眺めている。それをよそにボスが私たちの顔を見る。その視線に頷き、目で詫びた。そのまま視線を事務所の隅に移動させると視線を追ったボスが目を丸くした。


 そこには猫たちのドライフードが山盛りに入っている三つの茶碗があって、さらにそれには各々に可愛い猫のシールが貼られていたからだ。


 親子の間で交わされたその一連の動きに気付いたものは誰もおらず、柊氏はもちろんのこと最所、京念、るり子姉さんも


「いやあ、しげしげと見させていただくと本当に素晴らしい」


 と感嘆の声しきりである。


 その声を聞きながら私たちは曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。

 

 

***

 

 

「こら! ひなこ、ふたば、みいこ、ここに座らっしゃい!」
「一体全体なにを企んどる?」


 あの後の黒猫家での会食も一通り和やかに進み、最所と京念は柊氏をホテルまで送っていった。るり子姉さんはとっくに仕事に戻っている。


 咲良さんの部屋で私たちはすごすごと三人並んで座った。


「父さん、ひなちゃんとふたちゃんは悪くないんです。私が企んだことで――」


「違う、私たちも大賛成したんだから! 同じことだから!」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるボスは、ふと咲良さんを見た。


「もしかして――咲良も知っとるんか?」


 絵の中の咲良さんが渋々頷いた。


「――小雪も。女同士の秘密で」
「まったく。男親はつまらんことじゃ」


 嘆息するボスにとりあえず事情を打ち明ける。


「もし――もし万が一、なにかが、誰かがこの茶碗を狙ってうちに来たとしてもしばらくは時間稼ぎにならないかなぁって」


「むこうは本物を見たこと無いわけだし」


「それにひなちゃんの茶碗、びっくりするくらい本物そっくりで」


 ボスもしげしげと改めてひなこが焼いた茶碗を吟味している。


「本当に。ひなちゃん、見事なもんじゃ。わし以外誰も気付けんかもしれんな」


 と感嘆の声を口にしたが、慌てて頭を振り、


「こんなことをして。もしお前さんたちがそのせいで危ない目に合わないとも限らん。年寄りをあまりハラハラさせないでおくれ。とんだ跳ねっ返りの娘どもだわい、のう、咲良。え? お前さんも賛成だというのか。まったく、うちのお転婆たちときたら。わし一人が蚊帳の外かの。つまらん」


 どうもボスの愚痴の本音はそこにあったらしく、私たちは神妙に頭を下げながらも口元が緩んで仕方がない。


「で、どうするつもりじゃ」


「そこからは……父さんや皆さんのお知恵拝借です」

 

 

 

 

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四月馬鹿.3

 

 とにかく、その会が開催されるまであと一月あまりしかない。自然な形でその場に加わる方法はないものか。


 その御大尽が何者なのか、事件との関連性があるのかどうかは別問題としても、私たち全員の動物的な勘が動いたからには探りを入れたい。


 ひとつには、例の窃盗団の黒幕がどこの何者なのか未だに正体が突き止められていないせいもある。その筋では幻のミスターXと呼ばれているほどだ。


 そのものずばりのミスターXとは思えないのだが、なにか手がかりらしきものが得られるかもしれない。ようやく「骨董品」という一つの共通点らしきヒントが与えられたのは確かだった。被害にあったのは古物商、蔵を持つ旧家、そして骨董の収集家が大半を占めている。


 ああだこうだと話し合いは続き、最終的には正攻法で京念のクライアントでもある、かの会長の協力を仰ぐしかないだろうという結論に至った。


 なにしろ堅物、頑固で知られた人物だ。下手な小細工をするより、ある程度事情を打ち明けたほうがこちらの思いが通じるのではないか、というのが全員一致した考えだ。

 


 その話し合いのあとに、全権大使の役目を担って出かけた京念はなんと当の会長本人を伴って帰ってきた。まずは咲良さんの部屋で静かに頭を垂れ、事務所でひなこ作の抹茶茶碗で一服し、改めて周りを見渡して嘆息し、きちんと椅子に座り直した。


 柊と名乗る会長は京念の話しから私たちが抱いたイメージよりずっと若々しく、実業家というより大学の教授のような雰囲気を漂わせた紳士である。


「京念先生からあらましのお話を伺ったときは半信半疑でした。そんな非科学的な話がこの今の時代にあるとは思えなかったのです」


 彼はもう一度周りを見渡し、そして足元にまとわりついて甘えてくる猫たちに当惑しながら「こりゃまた随分人懐こい」と微笑んだ。

 


「でもこちらに来て、皆さんにお会いしてすべて本当の出来事なのだと信じることができました。よろしい。私ができる限りのご協力をしましょう」


 と力強く語り、


「して、私は何をすればよろしいか」


 と膝を進める柊会長は店頭に現れたときよりもっと若々しく見える。


 私たちは恐縮しながらも作戦の内容を話した。


 ふむふむ、うーむと時折首を傾げたり、腕組をしたりと聞いていたのだが、


「ともかく、その茶碗を一度見せてもらえませんか? さぞかし見事なものなのでしょうな」


 と言う。

 


 その言葉にボスが頷き、身軽に立ち上がった京念の後ろ姿を見送りながら、はたと大変なことに気がついた。思わずひなことふたばの顔を見たのだが二人とも私の視線に気づかない。


 こほんと咳払いを一つすると、ようやくはっとしたひなことふたばが立ち上がった時には京念が箱を大切そうに持ってきたところだった。

 

 

 

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四月馬鹿.2

 

「それは……しかし、その方の身になれば大変なことですねえ」


 京念も話を合わせた。


「やはり、それだけ奥深い世界ということなのでしょうねえ」


 会長は茶碗を桐箱に戻しながら低い声音で吐き出すように言った。


「いや、あいつはどう見ても世間に憚る稼業に関わっとるに違いないから、痛い目にあっても同情する必要もない。大体において物の良し悪しはすべて金で決まると思い込んどる。まったく、骨董好きの風上にも置けんやつですよ」


 それ以上のことは口にしなかったらしいが、その後も厳格なことで定評がある会長にしては笑いが止まらなかったという。


 その話をじっと聞いていたるり子姉さんの目が細くなった。


「ちょいと、それ面白い」


 その反応に男たちも頷く。


「その会は今度いつ開かれるかわかる?」


 そのあたりは抜かりがない。京念によると都内の某料亭で毎年卯月一日に開催されるのが恒例らしい。四月馬鹿の日、もし偽物を掴まされも笑って済ませようという大人の洒落っ気でその日に設定されているそうだ。会員もそうそうたるメンバーということで、隠密裏に行われているわけでもないのだが、顔ぶれが顔ぶれなだけに敷居が高すぎると思われてしまうらしく、新しいメンバーが増えないのが会の悩みなのだという。


 例の御大尽は創立してから二、三年くらいした頃に、ぜひとも、と会に加わったらしく、かの老人はひと目見て相容れない思いを抱いたのだが、経済界の大物からの肝いりということもあり、不承不承入会に同意したということだった。


 この辺りまで京念は巧みに聞き込んできていた。


「ただかずちゃん! お・て・が・ら!」


 るり子姉さんは京念の手を握りかけたが、私やひなこ、ふたばの視線に気付いて慌てて手を引っ込めた。

 


「まずはその会とやらに潜入したいわね」


 るり子姉さんが腕を組む。その言葉に京念も頷き、話を進める。


「なんでも会員一人の推薦が必要だとか。そして創立メンバーの五人が全員賛同すれば正会員、四人以下だと準会員となるそうですよ」


 ふぅん、と全員頷く。と、なるとやはりなかなか入会規定は難しいのだろう。
「正会員と準会員と――会での序列はどう違うわけ?」


「いえ、なに。別になんということもなく、二次会のお座敷遊びで若い芸妓さんやホステスさんが隣に座ってくれるかどうか、ということらしいです」


 先程まで感じていた会の格式レベルが一段階落ちたような思いがしたのは私だけではないと思われる。

 

 

 

 

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四月馬鹿

 さて、意外なことに新しい情報は京念からもたらされた。


 それはここのところずっと「振り回されている」感が強い彼のクライアントの話題からだった。


 古い馴染みの同業種からぜひとも、と紹介されたそのクライアントは、不動産業を幅広く手掛けている人物で、国内はもちろんのこと、海外のリゾート施設も多く所有しているということなのだが、最近は古書や骨董といった趣味にのめり込んでいるのだという。


 それもどちらかというと、仲間内での目利き自慢ごっことでも言うのだろうか。全国のがらくた市で掘り出し物を見つけ出すのに血道を上げているらしい。


 若い頃から趣味らしいものも持たず、仕事一筋だったが老境になってからのこの道楽には、周りの者たちも呆れながらも黙認している、と跡を継いだ若社長も苦笑いをしているという。


 往々にしてこういう人物にはほとんどライバルというものが現れるもので、この会長の場合は隣国の同じ年頃の人物らしい。


「まったく、どこで見付けてくるんだか。金に任せて、本当に嫌なやつだ」


 古ぼけた茶碗をしげしげと眺めながら、そう京念に愚痴った。今度は茶碗対決らしい。


 なんでも、その同好会のルールは年に一度テーマを決めて各々が自慢の品を出し、仲間内で優劣を決めるという単純なもので、今回の品は東北の古い商家の蔵出しで見つけた物で、かの戦国大名の側室が愛用していたのだ――という、いささか信憑性に乏しく、京念が見ても首を傾げたくなる品物だったのだが、別に正直に感想を述べて心象を悪くする必要もないわけで曖昧に相槌を打って聞いていたのだという。

 


「それがね、先生。この前のことさあ、いやぁ、溜飲を下げるっていうのは正にこのことだね」


 会長は思い出し笑いをした。


「なにがあったんです?」


 そう京念が尋ねるとなおもくすくす笑いながら


「あいつなあ、赤っ恥かきよった。ざまあみろだわ」


 なんでも逸品中の逸品と自慢たらたらだった古い焼物が、二束三文で土産物屋で売られているガラクタだったことが「自慢の逸品鑑定ズバリ」というその国の人気番組で明らかにされたらしい。


 本人推定価格の何億分の一という、番組史上類の見ない惨憺たる結果で、


「わはは、こんなこともありますよ。皆さん楽しんでいただけたら満足ですとも」


 と、その場は御大尽のごとく振る舞ったらしいが、怒りのオーラは凄まじく、現場は全員顔面蒼白、関係者はカチンカチンに固まったのは想像に難くない。


 なんでも番組プロデューサーと司会者、鑑定人はしばらく「入院」と称して雲隠れしたということだ。

 

 

 

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語り継ぐもの6

 

 折しも咲良さんの部屋も夕焼けに染まり、それが段々と群青に変化しだしたころ、庭の木戸口を開けて誰かが厨房の方へ小走りに急いでくるのが見えた。


「あ、麦ちゃんだ!」


 それは忙しくなった「塀のむこう」が新しく雇い入れた娘さんで、コロコロとよく太り、働き者で力持ちで頬が赤く、およそ現代の美人という評価からは外れているのだが、なんとも言えない愛嬌があり、皆からは「麦ちゃん」あるいは「大麦」とからかわれている娘さんだった。


 麦ちゃんは片手に大きなバスケットを持っており、急いで厨房のドアを開いた。

 

「マスターと奥さんからです」


 はにかみながらバスケットを差し出す。


「新作のお料理、味見してみてくださいって言われました」


 薄っすらと汗を浮かべた鼻から、よほど急いできたのだと窺うことができる。


 ほかほかと湯気があがり、見るからに美味しそうなバスケットのそれは、女三人気楽に済ませたいと思っていた夕食にぴったりで、マスターたちの気遣いに大いに感謝し、お返しに、と今日届いたばかりの果物をバスケットに詰めた。


「あ、それと……」


 私は急に思い出し、机の上においていた紙の包みを麦ちゃんに手渡す。


「この前見つけたの。麦ちゃんに似合いそうだなぁって買っちゃった。押し付けプレゼントだけど持っていこうと思いながらなかなか行けなくて」


 包みの中はタータンチェックの暖かそうなジャンパースカートで、商店街の若者専門の店に飾られていたものだ。


 それを見た麦ちゃんは目を丸くした。


「これ、私にですか?」


「うん、おばさんのセンスだから気に入らなかったらごめんね」


「そんな――そんなぁ! 本当にいただいてもいいんですか?」


 オズオズと、でも紙袋をしっかりと抱き締めて麦ちゃんは涙声だ。


「やだ、そんなお高いものじゃないのよ。いつもありがとうって、ほんの気持ち!」


 その言葉に何度も何度も頭を下げて帰っていく麦ちゃんを笑いながら見送り、私たちはマスターたちの新作だというパスタグラタンに舌鼓を打った。

 

 

「さっきのみいこ姉さんの話だけど」


 最近お気に入りだというフレーバーコーヒーを一口すすり、ひなこが考え深そうに話し出した。


「愛の反対語って知ってますか?」


「――ん? 憎しみ?」


 咄嗟にありがちな言葉が出てくる。


「新婚ふたちゃんはどう?」


 ひなこが笑いながら聞く。


「え? うーん……怒り、かなぁ」


 ふたばも同様に自信なげに答えた。


「あのね、それは『無関心』なんだって。憎しみや怒りはその対象にまだ関心を持ってるってこと。でも、意識すらしない、っていうのが反対語」


 ひなこの正解発表に私たちはなるほどねぇ、としみじみ納得した。


「一番哀れなのは――忘れられた女です。マリー・ローランサンの詩の一節にもあるんです。私もね、みいこ姉さんの考えに賛成。そんな気がする。誰かが――忘れ去られた誰かが泣いているような気がしてならない」


 ひなこのその言葉に、ふたばも同感だと頷く。


「泣いているんなら――一人ぽっちで泣いているんなら、なんとかしてあげられないかな」


 呟くふたばに、私たちは再び大きく頷いた。

 

 

 

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語り継ぐもの5

 つまり私の考えは、咲良さんの茶碗を追う一味と、駒鳥を忘れるなとメッセージを送ってきた人物は同一ではない。全く別の人物ではないだろうか、ということである。たまたま時期が重なったのではないだろうか。


 しかしそうであれば誰が一体、なんのためなのか。そこで堂々巡りになってしまう。
――お前たちの罪を忘れるな。お前たちがしてしまったことを忘れるな――とリフレインするように、何度も何度も囁きかける「忘れるな、忘れるな、忘れてくれるな」という想い。


 そしてそれは娘たちの霊ではなく、生きている人間が考えることのような気がしてならない。

 

 

 語り継げ。自分たちの罪を語り継げ。決してお前たちの心を平安にはさせない。どこかに――心のどこかに自分の心の暗闇を、ずるさを認めておけ。後ろめたさを感じ続けていろ。お前たちの罪は法で量れるものではないのだ。


 だからこそ重いのだ。そのことを決して忘れるな。


「私は」決して許さない。お前たちがのうのうと幸せになることを「私は」決して認めない。「忘れること」を「私は」許さない。


 そのようなメッセージが「Who Killed Cock Robin?」から感じざるを得ない。私はそう二人に話した。それがここ最近、ずっと心に引っかかっていたことである。

 

 

「……どこかで、もがいている人がいるかも、ということですか?」

 


 しばらくの沈黙の後でふたばが口を開いた。


「――前の私みたいに、人に話すこともできなくて、でも心にべったりとこびりついている苦しみを背負っている人がいるってことですか?」


 博打と酒に溺れ、幼い娘を施設の玄関に捨てていき、そのくせその娘が働けるようになったら今度は金をせびり続け、どこかに身を隠しては巧妙に行方を突き止めては現れたというふたばの義父の話を打ち明けられたとき、私とひなこは彼女を抱きしめて号泣した。


 そのときにふたばは語ったのだ。一緒に泣きながら、私とひなこに縋りながら。


「なんだか心がふっと軽くなった。誰かが一緒に泣いてくれるってこんなにも楽になれるんですね」


 そのとき三人で見上げた夕焼けの空を私たちは一生忘れることはないだろう。それは家族以上に一つになれた瞬間だったからだ。


 誰かが一緒に泣いてくれる、笑ってくれる――その温もりで心が一杯になった日なのであった。

 

 

 

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語り継ぐもの4

 

 そして私はもう一つの、これもずっと引っ掛かっていたことを話しだした。実はずっと感じていたモヤモヤをひなことふたば、咲良さんに聞いてほしかったのだ。


 通りの衆も、件の茶碗についての知識はほとんど無いと言ってもよい。


 それは夜咄の夜の驚きぶりを見ても想像がついた。後日佐月さんでさえ「なにか大切にしているものがある」と聞かされてはいたが、その価値は知らなかったし、それ以上考えたこともなかったと言っていたのだ。

 

 

 事実、逢摩堂に頻繁に出入りし、また、以前あのからくり棚に置かれていた三つの箱を見ていても全く無関心だった。


 佐月さんでさえその程度だったのだから、ましてや事故以降に逢摩堂と疎遠になってしまっていた通りの人々が茶碗の謎や価値を知っていたとは思えない。


 そんなことより、あの災害によって灯が消えてしまった賑わいが、そして手を尽くしても見付からなかった娘たちが――そしてその娘たちをいいように扱った挙句に見殺してしまったような自分たちの振る舞いが長年に渡って彼らを苦しめていたのだ。


 そして誰かがこの呪いを解いてくれる――誰かがこの封印を解いてくれる、とまるで救世主を待つかのように息を殺して待っていたのだ。


 咲良さんの部屋は開かずの間になった。これは佐月さんか逢摩氏から彼らにもたらされた情報だったのだろう。それがまた彼らを心から震え上がらせたに違いない。


 その後に訪れたというお手伝いの女性たちも、逢摩堂での不可思議をことさら大げさに言い募ったのかもしれない。また、待ち焦がれていたメシアのイメージに合わないと彼らがわざと追い出しにかかった疑いもある。


 そこに現れた私たちは、きっと彼らから合格点をもらったのだろう。その上咲良さんの部屋の封印もやすやすと解いてくれた。ようやく蘇生することができる――後付であろうとなんであろうと彼らが起死回生を図るには「神話」や「伝説」が必要だったのだ。正当な理由が必要だったに違いない。

 

 

 しかしこんな愛すべき小賢しい小悪党たちに、ずる賢いはずの大悪党たちが揺さぶりをかけるとはどうしても思えない。


 揺さぶりをかけたところで何も情報が出てこないのはよくよくわかっているはずなのだ。だとすれば、このような面倒なことはすまい。真っ直ぐに的を絞ってくるものではないだろうか。


 私にはこのあたりがどうにもこうにも腑に落ちないのである。

 

 

 

 

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