逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

1.逢摩堂.5

 薄暗い廊下を少し歩き、どうも突き当りの部屋に案内されるらしいのだが、
その間私は興味深くあたりを観察した。
 
 廊下の左右は倉庫と思しき部屋が一つずつあり、壁には棚がずっと続いている。
そして所狭しと色々な木箱やらダンボール箱やらが積み上げられており、
どうにもこうにも雑然としている。
蜘蛛の巣やら埃やらがこびりついたり積もっており、
いつ掃除したのだろう、と考えるとぞっとした。
 
 この話は断ろう。
これはいくらなんでもちょっと無理だ。
それにこの店主、普通じゃない。
みいこさんみいこさんって誰のことだ、違うって言っているのに。
とにかく落ち着いて話ができるようになったなら……。
 
「さあさあ」
 
 そう言って店主はドアを開けた。
促されるまま後についていくと、驚いたことに二人の女性が所在無さそうな顔で所々に置かれた椅子に離れて座っていた。
その二人は店主と私を見るとすぐに立ち上がった。
 
「ああ、ひなこちゃん、ふたばちゃん。待たせたね」
 
 店主が声を掛けると同時に
 
「だから! 私は!」
 
 と声が上がり、
 
「ひなこではありません」
 
「ふたばじゃないんですってば!」
 
 私も言わなければいけないように続けた。
 
「私もみいこさんではないんです!」
 
 店主は軽く両手を上げ、
それから時代劇のような仕草で静まれ、静まれとのたまい、ごほんと咳払いをした。
 
「今日は面接にいらして下さってありがとうございます。
私が逢摩堂の主です。
で、あなた方は全員合格です。
明日っから来てください。私からは以上です」
 
「後のことは……」
 
 店主はそう言いながら机の上の呼び鈴を軽く弾いた。
ちん、と澄んだ音が響く。
 
「今後のことは専門の先生たちとゆっくり話し合ってください。
じゃ、あとはお好きなように」
 
 そうして店主はドアを開いてするりと出て行ってしまった。
呆気にとられた私たちを残して。
 
 
 

 

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雨が各地でひどいようです。被害に遭われた皆様にお見舞い申し上げます。

 

 

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