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逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

3.とりあえず.3

 なんという手回しの良さなのだ。
確かに必要ではあろうがもう少し今の状況に慣れさせてもらえないものだろうか。
頭がもう一つ、いやもう二つ三つ従いていけない。
 
 しかも彼はなんと言っていた。
リニューアルオープンは二週間後だと言っていた気がするが……
そんな話は私たちは聞いていない。
そうだ、こんなことはしていられない。
とりあえずは店を閉めよう。これ以上ややこしいことにならないうちに。
 
 私は昨日教えられたように自動ドアの下をカチリと施錠し、事務所にあった紙に『しばらくお休みします』としたためてドアに貼り付けておいた。
急場しのぎとは言うもののとりあえずは顧客に対して不誠実にはならないだろう。
『顧客』という者がいるのかどうかは別として。
 
 しかしこの昨日からの僅かな時間は「とりあえず」のラッシュがどれだけ続くのであろうか。
綿密にプランを練りあげて幾多のライバル社から仕事をもぎ取ることを常としてきた私の今まではどこへ行ってしまったのだ。
 
 そんなことを考えながら暗澹たる気持ちで事務所へ戻ると、
ひなことふたばが早速カタログに没頭していた。
 
「わあ、すごいすごい! こんなのもある~!」
 
「ちょっとこっちも見て! これ良くない!?」
 
 若いなあ君たちは。さすが八歳と七歳だよ。
十歳のおばさんはこの激変についていけないというのに。
なんとなく腹立たしいような心持ちで二人を眺めていると
不意にふたばが腕時計を見て、あ、もうお昼です――と言って
それに続いてひなこも休憩取りましょうよ、お腹すきませんか? 
と促してきた。
 
 食欲があっていいね、君たちは――と皮肉の一つも言いたくなったが
確かにもう昼は回っており、空腹であることに気が付く。
 
 私は外食派なのだが二人は意外にも弁当を持参していた。
そもそもお昼休みに外食をするようになったのは以前勤務していた会社で、
昼時ぐらいは仕事から逃れたいという理由だったのだが
その慣れはしっかり身に沁みついていたので弁当を作る、
という気持ちは全く起こらなかった。
 
「あ、じゃあ私は外に出る」
 
 そう言ってハンガーに掛けていたコートに手を伸ばしたのだが
二人から「待った」がかかった。
 
「あ、外何もないですよ!」
 
「おすそ分けしますから一緒に食べましょ!」
 
「え? そんな、悪いよ、コンビニくらいあるでしょ?」
 
「いいえ、ないです。この通り、何も無いんです。
食べ物屋さんもコンビニも! もう調査済みです!」
 
 とにかく、多めに作ってあるから大丈夫だ――と二人に押される形で再び座ったのだが、
この二人はいつの間にリサーチしていたのだろうか。
全くもって抜け目がないものだ、と感心させられる。
 
 目の前に並べられたご馳走はおむすびを始め、
サンドイッチやら煮物やらサラダ、お新香と誠に美味しそうで
初日から久々に他人の手料理に舌鼓を打った。
 
 
つづく
 
 
 

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