逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

3.とりあえず.5

「すごーい……」
 
 ふたばがため息をついた。
 
「昨日も今朝もちらっとは見てるんですけど……
こんなすごいことになってるなんて……」
 
 日光を遮るためなのか、部屋の突き当たりにある窓と思われる場所には床にまでつながるビロードの厚いカーテンが掛けられている。
 
 もっと明るい所で見たい! とふたばが身軽にカーテンに手をかけたのだが、
 
「待って!」
 
 と、ひなこが鋭く叫んだ。
 
「そこ、窓じゃないみたい。だって、ほら」
 
 ひなこが指差したところに見えたのは『参』と書かれたプレートで、
それはちょうどカーテンの真上に掛かっている。
 
「あ、『参』……第三倉庫ってこの後ろにあるってこと?」
 
「そうみたい。なんでこんな風に隠してあるみたいになってるの?」
 
 私たちは顔を見合わせた。
このカーテンの奥にあるものって一体全体何なのだ。
 
 そんなことを考えながらごくりと唾を飲み込んだのは、
この奥にあるものが決して楽しいものとは思えなかったからで、
三人三様各々口にこそ出さなかったが、
何か禍々しく人目に触れさせたくないものが収納されているのでは……
と憶測したからであり、私は一瞬目を瞑り、意を決して
 
「失礼します。よござんすか!? 開けますよ!」
 
 と思い切ってカーテンを開け、ふたばから手渡された鍵を鍵穴に差し込んだ。
 
 鍵は我々の思いとは裏腹にかちり、と案外軽い音を立て、
それに続いてそのドアを大きく開いた。
どうもあとの二人は私の後ろで背中にしがみついているらしい。
 
「わぁ……」
 
 私が思わず息を呑むと、その声につられて二人も部屋を覗き込んだようで、
 
「すごい……」
 
「嘘みたい……」
 
 と感嘆する声が後ろから聞こえてきた。
 
 三番目の倉庫、いや、倉庫とは呼ぶまい。
 
 ここはまるで居住区というか、完全に部屋と呼んだほうが適切であろう空間だった。
「ヨーロッパの古いお城の一室みたいだねぇ」とひなこが呟き、
ふたばも同感するように洋風の室内は倉庫というそれには程遠く、
またその部屋にふさわしい中世ヨーロッパを彷彿とさせるようなインテリアが置かれていた。
 
 この部屋が他の二つの倉庫に比べておぼろげながらも一瞬にしてほぼ全体が把握できたのは、
単に私たちの目が暗いところに慣れてきただけではなく、
南向きに大きな窓かガラス扉があり、
分厚いカーテンが閉められてはいたもののその隙間から日の光が漏れていたからだ。
 
 とりあえずは窓に近付きカーテンを左右に大きく開けてみるのだが、
そのビロードの分厚いカーテンの後ろにはもう一枚、
繊細なレースのカーテンがあり、そのカーテン越しに見えた外の景色に私たちはまたもや呆然とさせられた。
 
 窓の向こうは既に冬ざれとは言うものの見事に整えられた庭園になっていた。
決して広大というわけではないようだが
カーテンの向こうにある観音開きのガラス扉を開けた先にはバルコニーがあり、
そこから緩やかな傾斜で芝生が続き、
まるでモデルガーデンのように所々に洒落た小物が置かれていた。
 
 
 最も今の季節は所々芝生が茶色く変色してはいるが、
庭の奥にはバラと思しき蔓物がアーチに絡み、
さらにその奥には噴水が設えてあるようだった。
 
 花壇の方はまだしばらく眠りについているとはいうものの、
常緑の木々もバランスよく植えこんであって明らかに日曜ガーデナーの仕事ではなく
プロの手による庭園である。
 
 
つづく
 
 
 

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