逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

3.とりあえず.7

 おいおい、猫さんや。
お前さん出番多いよ――、と声が出そうになった。
 
 昨日の猫とさっき庭で見た猫は同じ子かもしれないが、
この絵でもか......と度重なる黒猫との遭遇にいささか驚いた。
 
 あの子のご先祖様ってやつかね、と
あまり気にもかけなかったのだが。
 
「いいねえ、この絵」
 
「なんか、ちょっと泣きたくなるねぇ」
 
 ひなことふたばは絵を見て涙ぐんでいるようだ。
さすが八歳と七歳は感受性が豊かである。
とは言うものの、実際は私も少し切なくなっていた。
 
 十歳の分厚い世間ずれという膜の下にすっかり鈍くなったであろう心の琴線が、
ぽろんと音を立ててしまうような、そんな切なさである。
 
「このモデルになった人と、この絵を描いた人って、きっとお互い好き合ってたんだろうね」
 
 ひなこがぽつんと呟いた言葉にふたばも大きく頷いていた。
 
「君たち、盛るねぇ」
 
 私は二人の肩を叩き、さ、とにかく仕事仕事! と年上らしく急き立てたのだが、
それは店内のレイアウトはこれで決まりだとイメージができあがったからだった。
 
 それはまさにこの部屋のイメージだ。これをコンセプトにしよう。
あの少女を主役にした店とディスプレイ。
あの少女ならこうしただろうと思える店作りに、あの少女が似合う店作り。
 
 毎月模様替えをするのは大変だろうし、せめて四季に合わせて展示品は入れ替える。
 
 春には春の品や本。
そういったこだわりはどうだろう。
いささかくさいかもしれないが、わかりやすいのではないか。
 
 そのアイディアを二人に提案すると大賛成を得た。
 
「じゃあ、それで決まりということで」
 
 事務所に戻った私たちは、ひなこのコーヒーとふたば持参の蕎麦饅頭でお三時にした。
ふたばはこれまたマイドリンクのお茶を啜っている。
 
 この七歳、おかしなことに食の好みがやたら渋く、
お昼のおむすびと煮物、お新香もふたばの作品だった。
なかなか他人は見かけによらないようだ。
 
 カタログをその間も見続けていたひなこが、
 
「まず、絶っっ対に必要なものは......」
 
 と、厳かに言い出した。
 
 うんうん、と私はメモの用意をしたのだが、
 
「うん、これは絶対に必要!」
 
 と、ふたばもひなこと真剣に頷きあっていたので、
だから何?――と促したのだが、
その答えはコーヒーメーカーやティーメーカーと各々の趣味を前面に押し出してきたので軽い眩暈を覚えた。
 
「じゃあ、その手のものは任せるから......あとはパソコンやらコピー機やら、事務機器の方もね! 
レンタルっていう考えもあるからその辺も検討よろしくね」
 
「承った!」
 
 二人はそう声を揃え、じゃあ店内レイアウト、よろしく! 
とこれまた声を揃えて返事があった。
 
 思わず二人に倣って「承った!」と声が出たのだが、
慌てて「手伝ってよね」と付け加えておいた。
 
 作戦会議は饅頭一個を頬張る間に終了した。
できる女たちは決断と仕事が早いのである。
 
 
つづく
 
 
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