4.黒猫家にて.4
そのとき同時に二人の顔に奇妙な戸惑いの表情が浮かんだ。
「今、なんとおっしゃいました?」
「あの部屋、開けた……いや、開いたんですか!?」
驚いたのはこちらの方だった。
開けた、いや、開いた――この際どちらでもいいのだが、あの部屋に入ったらいけなかったのだろうか?
だって鍵を渡してきたのはあなたたちではないか。
「え、まあ開けたというか……
開いたんですけどいけませんでしたか?」
二人の男性はお互いに顔を見合わせている。
「はあ、こんなことってあるんですなぁ」
「いやいやいや、あるんですなぁ」
この二人の台詞は昨日も聞いたような気がする。
私たちの不審な表情を見て、最所が少々慌てたように説明した。
「いや、失礼。私たちも実は第三倉庫は見たことがないんですよ。
ご覧になってお分かりとは思いますが第一、第二があの有様ですしね。
逢摩氏も倉庫に他人が入ることを好んではいらっしゃらなかったし。
まあ皆さんがお越しにならなかったら、そのうち、とは思っておりましたが。
いえ、確かに存在は知っていますとも。第二の奥にありますでしょ? ただ、いつの間にか鍵を間違えたのか開かなくなった、と逢摩氏もおっしゃっていて。
いわば第三倉庫の鍵は役立たずというか……しかし捨てるのもいかがなものか、ということで……
それを説明するのをすっかり失念しておりまして」
どうにも怪しい。この説明では納得出来ない。
現に鍵にはられたシールは第一、第二同様かなり年季が入っていた。
この二人は何か隠している。
「まあそういうわけで鍵が三つというのはなんというか……セットみたいな感覚とでも申しましょうか。
でも開くのはそのうち二つということで……
でも第三倉庫も開いたんですよね、実際。うーん……」
途中からグダグダになってきた。
仕方がない、助け舟を出すことにしよう。
「ああ、もしかして鍵か鍵穴に異物かなにかがついてて、何かの拍子にそれが取れたのかもしれませんね。
私、かなりガチャガチャとノブを回しましたから」
十歳のおばさんがことさら無邪気に言ってみせる。
二人の男たちはぱっと表情が明るくなった。
「ああ、そうか。そうかもしれないですねぇ。
うんうん、きっとそうだ。よかったよかった」
「ええ、きっとそうですよ。でもよかったぁ、偶然そのゴミが取れちゃって!」
すかさずひなことふたばも善良そのものの笑顔で相槌を打った。
全くこの二人はいい仕事をする。
私はその後をうけて、まるで何事もなかったかのように話を続けた。
つづく
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