5.塀のむこう.1
珍しく早起きしたのは、昨日心のなかで誓ったようにお弁当を作ろうと思ったからで、
私は昔のレシピを思い出し、ちらし寿司を三人分作った。
これだったら多分弁当持参の二人にも夕方小腹が空いた時に食べてもらえそうだからである。
味の方はあまり自信はないが
薄焼き卵やグリーンピース、干瓢や椎茸など彩りよくできあがり、
なんとなく美味しそうに仕上がったのでお腹がすいた時なら食べてくれるだろう。
空腹は何よりもの調味料というし。
あとはお茶も用意し、久しぶりに大ぶりのバッグにそれらを詰め込んだ。
ああ、そうそう……とお気に入りの香もバッグに入れた。
今日はあの少女の部屋を綺麗に掃除しよう。
それからこの香も焚こう。
なんとなく、そうしたほうがいいように思うから。
あの部屋が喜ぶような気がするから。
それから庭に集まる猫たちへのキャットフードも途中で買っていこう。
これは単純に猫が好きだからなのだが。
今日はあの庭へ降りてみようと思う。
昨夜見た灯りの正体も確かめねばならないし。
ああ、忙しい。忙しいのはやっぱり張り合いがある。
仕事を辞めた時にもう時間に追われる毎日は嫌だ、これからはゆっくりと自分の時間を楽しもうと思っていたのだが、
いざ実際にその時間を与えられるとそれはただただ何もしないという怠惰な時間に変化しただけだった。
これではいけないと旅行に出てみたりショッピングをしたり、
という変化を強制してみたのだがやはりどれも満足できなかった。
私はどうやら自己管理能力というものを全く育ててきていなかったのだろう。
まだ十歳だし、仕方がない――と口にしてなんだかおかしくなってきた。
そういえば八歳と七歳は今まで何をしてきたのだろう、とふと思い、
その次に二人の本名すら知らないということに今さら気がついた。
そういえば私もあの二人に本名を言った覚えがない。
私たちは「みいこさん」「ひなこちゃん」「ふたばちゃん」で充分事足りていて、
お互いに「実は……」と名乗り合おうとも思わなかったし、
それ以外の情報も必要とは思わなかった。
コーヒーが好きで物事を筋道立てて冷静に考え、
押さえるところはきっちりと押さえる能力に長けているクールビューティーなひなこ。
コーヒーやお酒が全く飲めず、言動や外観はいかにも現代的な割には
古風な一面も併せ持ち、人一倍気遣いができるふたば。
これだけわかっていれば充分なのかもしれない。
さて、あの二人には私はどんな風に映っているのだろうか。
つづく
お父さんがた!まだ間に合いますよ!!
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