5.塀のむこう.2
途中のコンビニで猫のカリカリを購入した私は、不意に初日にもらった例の箱を思い出した。
恐らくは猫のご飯→ご飯のための入れ物→皿→件の箱という古典落語のような発想で結びついたのだろう。
たしかあれは猫のご飯用の皿にとても高級なものを使っていて……オチはなんだっけな……
と思い出しながら歩いて行くと小さな稲荷神社が見えたので思わず立ち止まった私は
「商売繁昌、何とぞお願い致します」
と神妙に手を合わせて逢摩堂へと急いだ。
今朝は二人を待たせるわけにはいかない。
ドアを開け、せめて暖房はつけておかねば。
そして今日こそはあの箱も開いてみないと。
通りに入り、どん詰まりの逢摩堂を見た私は一瞬目を疑った。
シャッターが開いている。昨夜閉め忘れたのだろうか?
いや、そんなはずはない。
閉めたあと、ちゃんと指差し確認を三人――いや、五人でしたのだから。
思わず走りだした私の後ろから
「うそ!!」という悲鳴と「えー!!」という悲鳴がほんの少しの時間差で聞こえてきた。
ひなことふたばの声だ。
逢摩堂にはほぼ同時にゴールし、
なんと今日はご丁寧にドアまでするりと開いており、私たちは顔を見合わせた。
「空き巣……じゃないですよね?」
「でも誰が?」
考えられるのは逢摩氏以外にいないのだが、万が一そうでなかった場合はどうしようか。
しかし夜中ならまだしも、もうすっかり明るくなってしまっているこの時間に「そうでない人」がまだ残っているとも考えにくい。
普通「そうでない人」はとっくに仕事を終えてずらかっているはずだ。
「行こうか」
と私が言うと
「はい、行きましょう」
と、ひなこが冷静に言い、
「姐さん、ついていきますぜ」
と、ふたばも続いた。
三人で一塊になり、恐る恐る足音を立てないように進んだ。
まずは事務所から見ようと思ったのだが鍵は掛かったままである。
ひなこから鍵を受け取り、静かにドアを開けたのだが
昨日と変わらずデスクには二人が付箋をたくさん貼ったカタログも同じ位置にあるし空気の乱れも感じられない。
次は金庫を開けたのだがぎい、と軋む音が心臓に悪い。
一瞬目を閉じて祈る思いでそっと開けたが、中身は変わらずそこにあった。
なぜか三人で小さくガッツポーズをしてまた静かに閉めた。
次は倉庫なのだが――申し訳ないがここまで来るとかなり気が楽になる。
どうせガラクタばかりだから、と古物商をこれから始めるという割には誠に不謹慎な心構えだ。
つづく
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SMAP解散……残念ですね。
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