逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

5.塀のむこう.3

 第一倉庫は異常なし。
 
「ええ……少し無くなってればよかったのに……」
 
 そう呟いたのはふたばで、
私も内心実は同じことを考えていたことを否定しない。
 
 続いては第二倉庫。ここまで来るともっと気が楽になった。
無論誰が開けたのかという疑問は残ったままではあるが。
 
「いい? 開けるよ?」
 
 ドアの鍵穴に鍵を差し込もうとした瞬間、ひなこが私の手首をつかんだ。
驚いて顔を見ると口の動きだけで
 
「誰かいる」
 
 と示した。
 
「え? 中に?」
 
 ドアに耳をぴったりくっつけたふたばも
 
「いるいる、誰かいる」
 
 と指差しながら頷いている。
遅ればせながら私もドアに耳をくっつけたのだが、
確かに誰かが中にいて何か話している。
 
 誰? と三人はまたドアに耳をくっつけたのだが、
 
「逢摩さん!?」
 
 三人の呼吸はここでもぴったり合った。
もしいるとしたらその人以外に考えられないはずなのに、
なぜか逢摩さん、と声を掛けられなかったのは誰かと話しているような、
あるいは何かを一人で話しているようなその忍ぶような声音からだった。
いつもは真っ先に明るい声がけをするふたばさえ、
口元に手を当てたまま黙って突っ立っている。
 
 私たちはまた足音を忍ばせて事務所に戻った。
なんとなく立ち聞きをしたような罪悪感があったのだ。
 
 時刻はまだ午前九時にもなっていない。
もしかしたら私たちがこんなに早く店に来るとは思わず、一人で何かしたいことがあったのかもしれない。
そこで私たちはまた足音を忍ばせて一旦店の外に出ることにした。
 
 外に出ると三人からは大きな溜息が漏れた。
深呼吸したふたばに至っては――ああ、窒息するかと思った――と笑い出した。
 
「で、どうする? どこで時間潰す?」
 
 そう言ったとたん、不意に昨日の灯が脳裏をかすめた。
 
「あのね、昨日第三倉庫というか例のあの部屋のカーテンを閉めに行った時に
レンガ塀の後ろの方に灯が見えたような気がしたんだけど、ちょっと確認してみない?」
 
「え? だってここって通りのどん詰まりでしょ? 
後ろの方って確か竹やぶか何かだったはずですよぉ?」
 
 二人はそう言って不思議そうな顔をした。
 
 そう、逢摩堂の後ろはゆるい上り斜面になっていて、そこは一面竹やぶのはずなのだ。
この町は三方を低い山に囲まれたいわゆる盆地のような地形になっており、
中心街から離れたこの商店街はその南側の最も丘にも似た低い山に近い場所となり、
そのどん詰まり、すなわちその後ろは竹やぶになっているはずだった。
 
「私もそう思ってたんだけどね、でも確かに明かりが灯ってたんだよね」
 
「あ! もしかしたら!」
 
 ひなこがそう叫んで
 
「きっとそうだ! ちょっとついてきてください!」
 
 と、急に走りだした。
 
 え? また走るの? 年寄りはもっと労ってくれよ、
と思いつつふたばについで私も小走りになる。
 
 
つづく
 
 

もうそろそろハロウィンの準備をしておけば在庫切れの憂き目に合わないですむかもしれませんね。

 

 

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