逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

5.塀のむこう.6

 私たちが稲荷神社の後方にある道からこちらにたどり着いたのを聞いて二人は驚いたようだった。
 
 てっきりレンガ塀に作られている裏木戸から現れたものと思っていたという。
ほらほらこちら、と案内されてみると、
なるほど、少し進んだところにあるレンガ塀の一部分が木戸になっており、
そこから人が出入りできるようになっている。
 
 そしてそれはちょうど私たちが知らなかった事務所の勝手口の真裏になっており、
そのドアを開けると小さな厨房があった。
 
 道具類も一通り揃い、いかにもこざっぱりと片付いてはいたのだが、
そこで煮炊きが随分されていなかったのは明らかで、
それはこの部屋の持つどこかよそよそしい空気感が教えてくれた。
 
 こうしてみると私たちが知らない空間も逢摩堂にはまだあるらしい。
確かに手渡された鍵束には他にも鍵がついていた。
その内ゆっくりと探索をしなくてはならない。
今はまだとてもその気にはならないが。
 
「ご注文の品、お持ちしましたよ」
 
 ノックの後のその声に続いて「おう」という逢摩氏の声が聞こえ、
私たちはまた顔を見合わせた。
 
 この状況をどう説明するべきか。
どこまで説明していいものか。
というより誰かこの状況を私たちに説明してくれないだろうか。
 
 つい先程まで逢摩堂の奥方だと思っていたその人はまことに手慣れた様子で一見壁のようにも見える引き戸らしきものを開けようとしている。
 
「ああ、また何か置いたのね。油断するとすぐこれだから……」
 
「あ、お手伝いします!」
 
「そうね、ちょっとしたコツがあるから覚えてもらったほうがいいわね」
 
 その木戸は少々重いというか、
そっと滑らせるようにしなければ抵抗があるようでなかなか開かない。
 
「そっとね。乱暴に開けると、とんでもないことになってしまうの」
 
 肝に銘じておこう。
何かわからないがこれ以上とんでもないことに遭遇するのは絶対にごめんだ。
 
 逢摩堂、もとい塀のむこうの奥方とともに現れた私たちを見て主人は目を丸くした。
 
 奥方はにこやかに
 
「散歩中の皆さんに偶然会って、お手伝いしてもらったんですよ」
 
 と、ある意味真実を説明してくれたので大いに助かった。
たしかにこれ以上の説明は不要である。
 
 私たちからコーヒーポットとバスケットを受け取った奥方から――ああ、そこ閉めてくださる?――と言われ、
振り返ってあらためて今開けた場所を見て、
ようやく初日に感じた違和感の謎が解けた思いがした。
 
 厨房からの引き戸は棚の一つであり、作りつけと気にも留めなかった壁に並んだいくつかの棚の一つだった。
そこに並んでいる三つの木箱をちらりと見て、今日こそ開けないと、と心に誓った。
 
つづく
 
 

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レスリング女子、すごい大活躍っぷり!

吉田選手残念でしたね…。

 

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