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逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

6.昔、昔……4

「え? でもその跡って? それらしい建物って残ってないですよね?」
 
 ふたばがそう質問したが、その理由は私も知っていた。
 
 数十年前、この辺りに大きな土砂崩れがあったのだ。
なんでもこの辺り一帯の広大な土地を所有していた実業家が、より大規模な土地開発に乗り出して山の急斜面を切り開きかけたのだが、
その年の梅雨の長雨で地盤が緩んでいたこともあり、またその斜面の表面を覆っていた竹やぶを根こそぎ抜いてしまったことも影響したのだろう。
 
 間が悪いことに地盤が緩んでいたところに相次ぐ雨や台風の襲来による大量の雨は仮設の石積みまで一気に飲み込み、
土石流となって十数軒の民家や店舗が一瞬のうちに押し潰されたのだ。その折にかなりの犠牲者も出たらしい。
 
 今はその辺り一帯は緑の芝生に覆われた明るい緑地公園に変わったのだが、公園のほぼ中央には天に手を高く挙げている少女像があり、
その台座には『鎮魂歌』というタイトルが託してある。
 
 なぜこんなに詳しいかと言えば、私の祖母の幼馴染もその犠牲になった一人だったからで、おばあちゃん子だった私はよく昔語りに聞かされていたのだった。
そうか、あの昔話の舞台はこの辺りだったのか。
 
「この通りがあるこの斜面沿いは難を逃れた地域なんだよ」
 
 マスターは遠い目をして煙草を咥えた。
 
「あ、いいかな?」
 
「大丈夫です」
 
 私たちは声を揃え、平蔵もつられてにゃあ、と鳴いてようやく重い空気が和んだようだった。
 
「あの絵、見たんだね」
 
「その事故でいなくなってしまったのが、あの絵の人」
 
 煙草を灰皿の縁で軽く叩き、灰を落としながらそう呟くマスターに恐る恐る聞いてみた。
 
「逢摩堂さんとは?」
 
「あれを描いたのが逢摩堂さんだよ」
 
 ふうん、と私たちは顔を見合わせた。
逢摩堂の主人とあの少女は恋人同士だったのだろうか。
 
「あの……」
 
 背後から声を掛けられぎょっとした。
声を掛けたのは塀のむこうの奥方で、あまりにも静かに座っていたのでつい存在を忘れかけていたのだ。
 
「あの、あの絵――娘さんは元気でいました?」
 
 まただ。元気でいたか?――同じようにこの人も聞く。
 
 叩きこむように奥方はもう一度尋ねた。
 
「逢摩さんは会えたのでしょうか? 咲良姉さんと逢えたのでしょうか?」
 
 その声は悲痛な声音だった。
 
つづく
 
 

本日もご覧いただき、ありがとうございます!

なんだか暑さが和らいでいましたね~。

 

 

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