8.おおつごもりの客.2
そんな折、カラン――というドアベルの音とともに普段は「なぁーんご」と可愛い声で愛想を振りまいてくれている猫たちがいつもと違う唸り声をあげているのに驚きながら私は慌てて店に出た。
店内をじろじろと見渡していたのは年齢の頃二十歳そこそこといったところだろうか。
派手なつけまつ毛の長身の女性で、胸元が大きく開いたカットソーにショートパンツ、足元までありそうなヒョウ柄の毛皮を羽織っている。
真っ赤な髪は二つに分けられ、各々耳より上の方で無造作にまとめているので影だけを見ると大きな耳が頭に生えているような感じだ。
なるほど、店番の猫たちは何か大きな動物か魔物でも現れたと思ったのかもしれない。
「ねえ、ここ猫も売ってんの?」
その声を聞いてびっくりした。
外観を見て女性だと思っていたのだが、
その野太い声はどう考えても男性のそれだった。
「ああ、猫たちは売り物ではありません」
「そう。こいつなんていい皮とれそうじゃん」
客は尻尾を大きく膨らませて威嚇している平蔵の首根っこをやすやすと掴み、
ジロジロと見た。
「とんでもない。うちの看板娘たちですよ」
にっこり笑いながら素早く平蔵を奪い取り、そっと床に降ろし
「さ、お台所へ行っておやつを頂いていらっしゃい」
と声をかけると猫たちは一斉に奥へ引っ込んでいった。
「この家具なんかも売ってんの?」
「ああ、家具類は非売品です」
「じゃあこのツボは?」
「申し訳ありませんが……」
「……じゃ、この皿は?」
「申し訳ございません」
客はつけまつ毛の目を細めて私をじっと見た。
「やっぱりね。やっぱりここ逢魔時堂でしょう?」
「は?」
「だからぁ、ここ。本当の名前、逢魔時堂っていうんでしょ?」
何の事だ。逢魔時堂――逢摩堂。確かに似ているが本当の名前は逢摩堂以外にない。そんな舌を噛みそうな名前ではない。
「ネットで評判になってんの。町外れに夕方から夜になると狐火が飛び交う変な店があるってさ。
なんでもそこじゃ思い出の買い付けをしてて、面白い話だと高く買ってくれるって。
でも明るいうちはどこにその店があるのかわかんない。
でもって夜になっちゃうと狐の祟りとかで近寄れない。
ほんの何十分――夕暮れ時しか姿を表さないっていうんで皆探してんのよぉ」
その話にますます面食らっていると
「失礼いたします」
とひなこがしずしずとお茶を運んできた。
にっこりと笑顔で「どうぞごゆっくり」との言葉付きで。
そしてまた奥へ引っ込んでいったのだが、
その時点でひなことふたば、そして逢摩堂の主人が息を潜めてこの続きを聞いているのが容易く想像できた。
つづく
本日もご覧いただき、ありがとうございます!
なんだかまた台風が来ているそうで…。
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