8.おおつごもりの客.4
さて、いよいよ大晦日。おおつごもりである。
お店の方は隅々まで綺麗に整えられてはいたが、もう一度私はとことん手を加えて磨き上げた。
年神様をお迎えする心の儀式のようなものだ。
同様にひなことふたばも以前と見違えるくらいきちんと整理整頓されていた第一、第二倉庫を徹底的に綺麗に掃除していたし、
咲良さんの部屋にも三人で心をこめて室礼をした。
相変わらず主人には心を許そうとはしないようで、
入室できるのは私たち三人に限られてはいたが日を追って部屋の空気が柔らかくなっていくのをなんとなく感じ、
その報告だけで主人は満足しているようだった。
すべて心置きなく準備が整い、事務所でほっと一息ついたのは午後も回り、かれこれ三時に近い頃だっただろうか。
普段は「カラン」となる店のドアベルが「ガラン!」といささか乱暴な音を立てて数人のがやがやという声が聞こえ、猫たちが数匹事務所へ駆け込んできた。
何事だろう――と顔を見合わせた私たちは一斉に店へ飛び出した。
と、同時にいくつかのフラッシュが私たちの目を射た。
「ちょ、ちょっと、なんですか?」
見ると昨日の客が今日は虎柄のコートに身を固め、にやにやと腕を組んで立っており、
その回りにはカメラを抱えた屈強そうな四、五人の男たちが私たちはもとより店内をパシャパシャと撮影していた。
「ちょっと! あなた方、一体何してるんですか!?」
思わず言葉が詰問口調になった。こちらも腕を組んで対抗する。
「うわぁ、こわぁい」
「やだぁ、やっぱりあの筋の方よぉ」
この言葉遣いから察するに、この男たちはつけまつ毛の客と同じ趣味の方のようだ。ふたばが冷たい声で凄みを利かせた。
「あまり失礼なことをなさると『その筋』の方へ連絡しますよ」
「あらーっ、やだぁ、お姉さん。固いこと言いっこなしよ」
とりわけ熱心に写真を撮っていたゴツい体格の男が甘い声で言った。
「今日は私たち、今年最後の思い出の日なんだからぁ、皆で集まる記念日なのよぉ。
さあ、皆並びましょ! ねえ、三人の姉さんたちも入った入った。
やだ、るみこ姉さんたら何端っこに立ってんの? 真ん中よ、真ん中。
姉さんたちは……そうね、るみこ姉さんを取り巻く感じってやつ?
やぁだ、なに硬い顔してんの! 笑って笑って!」
ひとしきり取り仕切られ、なんだか訳がわからぬまま私もひなこもふたばも有無を言わさず虎柄コートの「るみこ姉さん」の回りに立たされた。
つづく
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