8.おおつごもりの客.5
「すごい日になったわねぇ」
「もう、もう私たちの前途を祝福してるってことよぉ」
「しかも……あれでしょ? もしかしたらあれなんでしょ? この姉さんたち……」
「しっ! だめよ、それは言っちゃいけないのよ!」
「ねぇねぇ、いくらで売れるの、このネタ」
え? と思わず私たちは「るみこ姉さん」越しに顔を見合わせた。
そのときカラン、とドアベルが鳴り、
現れたのは巨大なバラの花束が二つ――しまった、彼らに連絡をするのをすっかり忘れていた。
しかしなぜこのタイミングで現れるのだろうか。
そしてネット上で噂のこの「二人の怪しい男」は、
「はい! 皆さんの大好物のバラですよぉ!」
と陽気に告げた。
周りの男達の喉仏がゴクリと上下に大きく動き、水を打ったように店内が静まり返った。
バラの隙間から顔を出した最所と京念は目をパチクリしてこの不思議な光景を眺めていたし、
私とひなことふたばは思わず天を仰いだ。
「ちょ、ちょっと、あたしたちの血はおいしくないわよ!」
「やだっ、やっぱりちょっとここ変! 変すぎ!」
男たちは急に弱気になった様子で出入口の近くに集まった。
先ほどまで全員を取り仕切っていた男は私と目が合うとぎょっとした表情になり、
「わかったわよ、これボツにするわ。
さ、みんなもいい? さっき撮った写真はみんな消すの。いい?」
「ええ……」
「そんなぁ……」
「もったいなぁい」
などと口々に声があがっていたが、
「あんたたち、祟られてもいいの?」
と男が言うと不承不承といった体で他の男達は指図に従ったようだった。
ひなこが目を細めてその様子を見守っていると、それに気付いた男は
「わかったわよぉ、さ、あんたたち、あのお姉さんとこ行って証拠を見せてらっしゃい。
とっとと行くのよ!」
さらに目を細めてじっと見たふたばに気が付いた男は、
わかったわよ――と恐る恐る近付いてきた。
「あたしも消すわよ、それでいいんでしょ。ほら、見なさいよ!」
「ったく、なんなのよ! この化け物屋敷は!」
と捨て台詞を吐き、
「行くわよ! 帰りゃいいんでしょ!」
そう言ってゾロゾロと、しかしかなり急いで出て行く。
最後まで残ったのは虎柄つけまつ毛で、なおもずっと腕組をしたままだ。
「すまなかったわね。変なのがついてきちゃって」
一応謝っているらしい。
「ええ、ちょっと驚きましたけど色々なお客様がおいでになりますので、
どうぞお気遣いなく」
私たちは目をほっそりとしたまま口角だけは上げていた。
「あんたたち、一応言っとくわ。この店狙われてる。色んな筋からね。
あいつらは一応あたしが仕切っとく。……で、あんたたち、本物なのね?」
この本物という意味がよくわからない。何が本物なのだ。
しかし私は答えた。私の口が勝手にこう動いたのだ。
とても優しく、とても温かな声で。
「ええ、本当のことです。あなたの大切な思い出と同じくらい本物なのですよ」
そのつけまつ毛は黙って目を閉じた。
「わかった。年が明けたらまた来る。その時に話すわ。じゃあ、失礼しました」
そして深々と頭を下げて出ていき、閉じたドアの前でまた頭を下げたので最所と京念は慌てて最敬礼をしていた。
「はぁ」
大きな溜息をついたのはふたばだ。
「みいこさんて、やっぱりすごい」
ひなこは私の腕を掴んだ。
私はぞわりと背中が冷えたような感覚を覚えた。
狙われているって、なんのことなのだろうか。
そして何に狙われているというのだ。色んな筋って一体何者たちなのだ。
つづく
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