逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

9.唐土の鳥.3

 また逢摩堂の主人は自分はコスプレには参加しない、と意地を張っていたがひなことふたばがマフィアの親分風の古着を用意したところ、
すっかり気に入ったようで近頃は葉巻なんぞも咥えて私たちから「ボス!」と呼ばれて楽しんでいたし、
京念と最所も「できる女性はバラが似合う――女性経営者を愛で支えるプロフェッショナル」とかなんとか一部地方で有名になったことを大いに利用して、
この頃は胸ポケットにバラを一輪挿していた。
 
 そのキザさがおば様たちのハートを鷲掴みしているとかいないとか。
 
 いずれにしても体格のいいボスとバラの花を胸ポケットに挿した頭のキレそうな二人の男との三人組はどう見ても堅気には見えず、私たちは
 
「ただでさえ怪しいと言われている店なんですから、これ以上怪しくなるようなことをしないでくださいね!」
 
 と時々彼らをお説教し、その都度しゅんと萎れる三人に内心笑いを噛み殺していた。
 
 さて夕暮れ。
正月三が日は「逢摩堂」の看板が「逢魔時堂」に変わる瞬間を捉えんと多くの人たちが待機していた店の周りもなんの変化も起きないことにすっかり飽きたと見えて通りは静かだった。
当たり前といえば当たり前なのだが。
 
「今日も一日ありがとうございました」
 
 私は誰に言うともなく呟き、自動ドアを閉めようと屈み込んだのだがそこに小さなシールが外側から貼られているのを見つけた。
 
 こんなところにシールを貼って、子どものイタズラだろうか。思わず
 
「こらこら、こんなところにシールなんか貼っちゃだめだよ」
 
 と呟き、剥がそうと外に出ると、通りの入口から全身白づくめの装いで歩いてくる人物を認めた。
 
 三が日で荒稼ぎをした表通り商栄会は五日過ぎたところでシャッターを閉め、
元の何もない通りに戻っていたのでこの人物が逢摩堂を目指しているらしいことは明らかである。
 
 そこでこの人物をドアの前で出迎えることにした。
 
 ますます近付いてきた人物は私を認めると満面の笑みを浮かべたのだがドアの前でいきなり屈み込んだ。
 
 そしてドアの下に貼ってある例のシールを見つけては嬉しそうに剥がし、それからもう一度私を見た。
遠目では髪も白く見えたので老人かと思っていたのだが、明るい店内で見るとまだ若い容貌だ。
白いおしゃれなコートがよく似合うハンサムな男である。
 
 彼はそのまま、ごく自然に店に入ったので慌ててその後ろから「いらっしゃいませ!」と声をかけると、
その声を聞きつけたかふたばが温かなお茶を運んできた。
 
「サンキュー」
 
 ん? もしかしたらこの人物、外国の人か――少々緊張する。
 
 風貌はどう見ても日本人なのだが……全く日本語が通じないと困る。
 
つづく
 
 

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