9.唐土の鳥.4
「エット……ワタシ、サガシテマス」
「エット…オバアサンノカタミ……」
うん、良かった。片言でも日本語はなんとか話せるようだ。
しかしこの話し方、変なリズムがあり、聞き取りにくいことおびただしい。
「オバアサン、ニホンノヒト。
ムカシ、コノミセニユビワ、ウッタイイマシタ」
「ニタユビワ、ココデミツケタ イウヒトイマシタ。
ソノヒト、メジルシツケタ イイマシタ、コレデス」
先程彼が剥がしたシールを私に見せてきた。
なるほど、丸いシールの真ん中に『ココ』と書いてある。
「ユビワ、カイモドシタイデス。ドコアリマスカ?」
ちょっと待った。うちには指輪など置いていない。
始めから貴金属の類いは扱っていないし、そもそも店内のレイアウトはすべて私が行っているのでどこに何があるかも大体把握している。
「お探しの品はうちにはありません。残念ですがお店をお間違いなのではないでしょうか」
私はこの日本語が不自由らしい、祖母は日本人だとかいう青年に優しく言った。
「私どもの店では貴金属――指輪とか時計とかは扱っていないんですよ」
「ソンナハズアリマセーン。サガシテクダサイ。
ワタシ、ワザワザキマシタデス」
なおも食い下がる彼はこう続けた。
「ミツカラナケレバ、ワタシ、ケサレマス。
オネガイシマス。ハヤクダシテクダサイ」
再び――ちょ、ちょっと待った――。である。
あんた何言ってんですか。ケサレル――消されるなんて物騒な。
しかし青年の目はあくまで必死だ。
「ですから、先程も申しましたが――」
私が言葉を止めたのは、いつの間にか青年の手にはナイフが握られていたからだ。
そして日本語が不自由だったはずの青年は低い声で
「さっさと出しな。命が惜しくねえのか」
と小声で呟いた。
「仲間がここに隠したって言ってんだよ」
命の方は大いに惜しい。しかし心当たりは全く無いのである。
ここに至ってぞわりと背筋が寒くなったが、それでもさほど恐怖心が湧かなかったのは言った本人が私より震えていたせいで、
しかもよくよく見るとナイフはおもちゃなのだった。
しかもタイミングが悪いことにガランとドアが開き、
現れたのは今日はまた一段と念入りに研究に研究を重ねてそれらしい装いをした逢摩堂主人改めボスと最所、京念トリオで。
あちゃぁ……と私が思う間もなく男は頭を抱え、その場にへたり込んだ。
「タスケテ。イノチダケハトラナイデ、ケサナイデ」
おもちゃのナイフがコトン――と薄っぺらい音を立てて床に転がった。
つづく
今年も新米の季節ですね~♪
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