9.唐土の鳥.5
五分後、男は事務所の床に座らされていた。
背後の大きな椅子にふんぞり返っているのはボスで、
そのまた背後には最所と京念が冷たい表情を浮かべて立っている。
ひなことふたばは男の真正面の長椅子に足を組んで座っているし、
私はデスクチェアにこれまた足を組んで座っていた。
どう見ても堅気のアンティークショップの事務所内の風景とは程遠い。
奇妙な沈黙がしばらく続いた。ふと気づくと男を除く全員が私の方を見ている。
ボスに至っては口の動きだけで「やれ! やれ!」と言っているようだ。
この役は私がするのか? 全員の目がワクワクしている。
あなたたちはまったく! 仕方がない奴らだ。
「で。さっさと吐きな」
うん、我ながら上出来である。
ボスは葉巻を咥え、最所がライターをカチリ――シュボ、といい音を立ててすかさず火を点けた。
ほお……と煙を吐き出すと例のガラガラ声で
「この姐さんら、気が短いからのぉ……」
と一言呟いた。
俯いていた男はハッと私を見た。じっと私も彼を見返す。
「ショージキニハナシタラ、タスケテクレマスカ? オバサン」
おばさん……?
私の声がまた一段と冷たくなったのは言うまでもない。
「つべこべ言わずにさっさと吐きな。それからじゃ」
そこにふたばが追い打ちをかけた。
「下手なラップでごまかしてんじゃないよ!」
ひなこが黙ってCDの音量を上げた。
圧倒的なボリュームで流れたのはゴッド・ファーザーの『愛のテーマ』で、
いささか設定が古いとは言うものの意気は十分すぎるほど上がった我々であった。
自称ラッパーの男は更科露敏(さらしな ろびん)と名乗った。
所属するのはシルバーフォックスという知らない人は知らないだろうけど知っている人は知っている、というバンドの一員だそうだ。
「年末年始、ここの通りのコスプレイベントにも参加したんすよ。もう若い子たちがキャーキャー言って」
自慢げに更科は話し始めた。
「でもオレ、風邪ひいてて出れんかったんす。残念だったっす。
来年もやるっすかね? 来年はもうオレ、絶対絶対何があっても出るっす!」
ははあ、私たちが見逃した銀狐コスプレの一団とはこいつらのことだったのか。
しかしこの調子では話がなかなか進まない。
ちらりとひなことふたばを見ると二人は頷き、男の前にしゃがみ込んだ。
「で。指輪ってなんのこと?」
「で。消されるってどういうこと?」
「わ、すみません。話します話します! ごめんなさい!」
つづく
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