逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

9.唐土の鳥.7

 すなわちこの男の仲間の一人が、ヤバい何かが示されたメモが入っているという古ぼけた指輪を街外れの変な名前の骨董品屋に隠し、
その目印シールも貼り付けたのが「ココ」というわけである。
 
 しかしそれらしい物は「ココ」の人々は誰も目にしてはいない。
 
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、それ見つからないととってもマズイことになるの?」
 
「それは『ココにとって』マズイことになるの?」
 
「具体的にどんなマズイことになるの?」
 
 私たちは矢継ぎ早に質問を浴びせた。
というかなぜそんなマズイことにならなければならないのだ。
この堅気の店が。
堅気の店にマズイことを勝手に持ち込むんじゃない。
 
「おうおう、そういえば……」
 
 ガラガラ声でボスがいきなり声を出した。
 
「そうじゃそうじゃ、きっとアレじゃ」
 
 と、事務所を出ていく。
それがあまりにも唐突過ぎて更科露敏なる男はもちろん、
私たちもぽかんとその後姿を見守っていたのだが、店の方から
 
「おーい、誰か長い棒かなんか持ってきてくれんかぁ」
 
 というボスの号令が掛かり、私たちは男もつれて全員で店へ移動した。
店では棚と棚の隙間をボスが覗き込んでいる。
 
「ありゃありゃ、またこんな隙間に入れてもうて……あれじゃあれじゃ」
 
 よくよく目を凝らすと、棚と棚の、そして壁との隙間に何かが転がっているようだ。
 
「いやいや、二、三日前猫たちがみんなで楽しそうに転がしとってな。なにかよくわからんまま遊ばしとったら隅っこへ入ったんじゃろう。
平蔵とハセガワが取ってくれってにゃあにゃあ言うとったが、ワシも面倒じゃったから他の物出してごまかしておったんじゃ。
そのとき何か見慣れんもんで遊んどるなあ、とは思うておったんだけどな」
 
 そこからは棚を片付けてずらし、やっとご対面となったものは男の言うとおり古く、なかなか凝った作りの指輪であった。
 
 日本のものではないのだろうか。宝石をはめ込んだ金属細工がなされている小さな蓋を開けると、そこには写真とか小さな絵でも収まるようになっているらしい。
で、今回の場合は「ヤバいメモ」だ。
 
 私たちはその指輪自体が爆発物であるかのごとく棒の先に引っ掛け、
恐る恐る事務所へ運んだ。
 
 事務所では白い手袋をはめたボスがルーペを出し、私たちはぐるりとボスの回りを取り巻いていた。
その輪の中には更科も加わっていたのだがボスの一睨みでまた床にしゃがみ込んでしまった。
 
 ピンセットで蓋の金具をそっと押すと、ぴん、と微かな音が聞こえた。
その他の物音は一切せず、事務所の中は水を打ったように静かである。
 
つづく
 
 

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