10.神かくし.2
目撃情報はいくつかあった。
表通りの干物屋の前で香箱を組んでいたとか、稲荷神社の境内で思案にふけっていたとか。
しかしその辺りで情報は途絶えているのである。
ハセガワを見知っている目撃者たちはその後逢摩堂へ行くものだと思っていたらしい。
私たちの心配は募るばかりだし、黒猫家も臨時休業で一日ハセガワの帰りを待つのだという。
わずかな距離とはいえ公道も通るハセガワだ。
るりこ姉さんはすぐ交通課に連絡していたし、その折に耳にした轢死体という言葉は悪い想像がそのままでふたばは泣き出し、ひなこも目が真っ赤になっている。
ボスはそんな私たちを見て
「大丈夫、絶対にハセガワは元気でおる!」
と断言した。
「平蔵を見てごらん。普段と変わらず、相変わらずやんちゃだろうが。
兄弟に何かあったらあんな元気でおらんはずじゃ」
ボスのその言葉は妙な説得力があり、なぜか私たちは安心した。
そして『私たちのはぁちゃん知りませんか?』というポスターを作り、
街の角々に貼ってもらえるように再び行動を開始したのだった。
正月のイベントで一躍有名猫になったハセガワの行方不明事件はたちまち拡散され、たくさんの情報が寄せられた。
事務所は寄せられた情報の整理に大わらわで、なんでも情報一件につきネコの手スタンプ一個、有力なものになると絵姿札を一枚進呈するのだという。
また、その情報により無事ハセガワを発見した暁には絵姿札十五枚揃えを二つ進呈、という懸賞をつけたらしく、
それを知ったボスは苦虫を噛み潰したような表情になったがいかんせんより多くの人たちが協力してくれているのは確かだった。
しかし有力な情報が得られないまま虚しく時間だけが過ぎていく。
通りの猫たちは各々実家の方で禁足を言い渡された。
塀のむこうの平蔵は、その間何度も脱走を試みているらしく、佐月さんもマスターも両手が引っかき傷だらけだと京念が話していた。
事務所、店から、そして通りから猫たちがいなくなったことは私たちを本当に悲しくさせたのである。
つづく
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