10.神かくし.3
さて、ハセガワがいなくなって三日目の朝。私は咲良さんの部屋のバルコニーへの戸を大きく開けてぼんやりと外を見ていた。
以前だとそこかしこに猫たちが遊んでいた庭も、夜半から降った雪にすっぽり覆われ、一層寂しさを増すようだった。
「え?」
思わず目を凝らした。つるバラのアーチのところに昨日までは目に入らなかった物――
何か赤いものが引っかかっているように見える。
なんだろう、と大急ぎで長靴に履き替えて近付いてみると、それは猫の首輪であった。
真新しいそれを急いで手に取って確かめる。
真っ赤な首輪に金色の鈴、洒落たネームタグには『ハセガワ 黒猫家』と記され、電話番号が書かれている。
そして首輪には小さな紙片が括り付けてあった。恐る恐る開けてみると
『ねこちゃんはげんきです。もうすこしいっしょにいさせてください。ごめんなさい』
子どもが描いたものなのか、黒猫を抱いて座っているらしい少女の絵の横にたどたどしい文字でそう書いてある。
私を追って同じく庭に、長靴を履いてズボズボと音を立てて出てきたひなことふたばもその紙を覗き込み、私たちは思わず立ち尽くした。
黒猫を膝に乗せて座っている少女の絵。
この構図はあの絵と同じだ。
ボスが若かりし頃に描いた咲良さんと同じだ。
ハセガワが本当に元気でいて、そして無事に帰ってくるのであれば申し分ない。
しかし、このメモを――この絵をボスに見せるのはいささか考えてしまう。
「あ! 足跡残ってないかな?」
慌てて塀の外に出て地面を見てみたのだが、塀の外は真っ白な雪道となっており、足跡は残っていない。
となれば誘拐犯は夜半前にその首輪をアーチに引っ掛けたことになる。
少なくとも足跡が雪の上に残る前に。
「どうします?」
ひなことふたばが私を見る。
「見せるしかないと思う」
その言葉に二人とも頷いた。
重い足取りで事務所に戻ると異変に気付いた男たちが私たちを待っていた。
黙って机の上に首輪とメモを置く。
最所、京念、るりこ姉さんは首輪に。
そしてボスはその絵に、
私たちはボスに、と視線はそれぞれ痛まし気に注がれた。
つづく
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