10.神かくし.4
とりあえず、心配のあまり身も細る思いをしている黒猫家には知らせなくてはならない。
これだけではハセガワの安否は定かではないが行方がわからなくなってから初めての情報であるし、また文面からはなんとなく凶悪さは感じられない。
首輪も綺麗なままだ。
だとしたら、なにか帰せない、帰したくない理由があってハセガワを留め置いているのではないだろうかと思われてならない。
駆けつけた黒猫家夫妻も同じ意見だった。
賢いハセガワのことだ。危険を感じたらなんとしても脱出を試みるはずだ。
それをしないのはハセガワ自身が何かを思ってその場にいるのではないか――と亭主はつぶやき、
とにかく無事を信じているし、きっと役目を終えたら戻ってくると自分に言い聞かせるように話し、
首輪を大切そうに持って帰った。
その後ろ姿を見送り、最所、京念、るりこ姉さんも慌ただしく各々の仕事へ出かけていった。
その間ずっと腕を組み、目を閉じて考え事をしていたボスが黙って立ち上がり、
棚の上にあれからずっと並べられたままになっていた三つの木箱――初日に私たちに祝いとして与え、その後私たちから返された形になっている三つの木箱を机の上に並べた。
真田紐をゆっくりと解き、黄金布から茶碗を大切そうに愛おしそうに取り出す。
取り出した茶碗を三つ並べてボスはまた目を閉じた。
私たちはそっと事務所を出た。なんとなく一人にしてあげたかったからだ。
気温がまた一段と下ったのだろうか。外は粉雪が降ってきていた。
さらさらと音もなく降り積もるこの雪は一層心を淋しくさせる。
「はぁちゃんが帰ってきたら……」
ぽつんとふたばが言った。
「はぁちゃんが帰ってきたら雪で歩けないかもしれないから……
こっちまで来れないかもしれないから……」
「わたし、雪かきします!」
「そうだね、まっすぐ走って帰ってこれるように……ね」
ひなこも泣き笑いをし、そう答えた。
私たちは通りからこちら、そして裏もハセガワが通れるくらいの道を作ることにした。
何かをしていないと悲しさまで心に積もりそうだったのだ。
事務所へ戻り、長靴、スコップ、帽子と重装備をした私たちにボスは驚いたようだった。
「ラッセル隊出動します!」
「あん?」
「ほら、はぁちゃん遭難させたら大変ですもん」
それを聞いたボスは苦笑した。
「まったく、あんたたちは」
そしてボスも立ち上がってスコップを握った。
「よし、じゃあわしは裏庭の道をラッセルしよう」
つづく
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