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逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

10.神かくし.7

 みんなを送り出す頃はすっかり夜になっており、塀のむこうでは二次会が開催されることになったらしく、賑やかに声を掛け合っている。
 
 マスターが去り際にウインクしながら
 
「表通りの面々が来るのは店始まって以来だよ」
 
 と笑った。
 
 佐月さんは私の手を握りしめ、抱き寄せて「ありがとう」と何度も何度もお礼を言ってくれた。
 
 立ち去りがたいであろうボスを残して私たちも部屋を出ようとしたとき、ボスから声がかかった。
 
「すまんが、事務所の机にあんたたちへ渡すつもりの茶碗がある。
持ってきてくれんか」
 
 私たちは頷き、各々が茶碗を持って部屋に戻った。
 
「咲良、お前がこちらへ来たときに大切に持ってきた茶碗じゃ。
お前の身分を証すものだと言っておったの。
わしはこれをこの三人に託したいと思うのじゃ。お前はどう思う?」
 
「うんうん、賛成してくれるかの?」
 
 咲良さんが持ってきた茶碗? 身分を証す品?
 
 これではますます受け取るわけにはいかない。
そんな大切な大事なものを……と私たちは辞退を重ねた。
 
 ボスは微笑み、咲良さんにウインクをした。
 
「ほれ、この通りじゃ。この茶碗を託すに相応しいと思わんか? この子たちならば見失うことはないだろう。
影をとらえて、影にとらわれて正体を見失うことはしないだろう。
そして今のわしだったら少しは守ってやることもできると思うのだよ。
歳を重ねた今のわしだったら……。
咲良、お前の意志を伝えていくことも……な」
 
 ボスの言葉は慈愛に満ちていて、私たちはこれ以上断る言葉を見つけることができなかった。
 
 これを受け取ることはもうすでに――昔からすでに決まっていたように思えたのだ。
 
 私たちがあの求人募集に応じて電話をしたことも――
しかもわずか一時間という受付時間に。
 
 この店が、咲良さんの意志が私たちを招き入れたのだとすら思えたのだった。
 
 私たちはその思いをありがたく受けることにした。
ただし保管場所は咲良さんの部屋だ。
そしてその茶碗にまつわる思い出もいつか必ず話してもらうことにして。
 
 その貴重な品々にふさわしい器になれたときに受け取りたいと、ボスと咲良さんに約束したのだった。
 
つづく
 
 

 

 

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