10.神かくし.8
三つの茶碗を咲良さんが見守れるように配置していると、
ひなことふたば、それに最所と京念がよいしょよいしょ、と掛け声も賑やかにボスの机と椅子を咲良さんの部屋に運び入れてきた。
「さあ、配置換えですよぉ! 一番怪しい人は部署替えです!」
「まあ仕事もしやすいでしょうし、お二人向き合っていただきましょうかね」
そして私は「参」のシールが貼られた鍵を咲良さんに見せた。
「もうこの鍵いりませんね。捨てていいですか?」
すかさずふたばが提案した。
「じゃあ『壱』の鍵も『弐』の鍵も捨てていいですか?」
「よかったら事務所の鍵も……」
ひなこがそう言って言葉をつないだ。
「そして、よかったら私、四つの鍵を溶かして小さなアクセサリーを作りたいんですけど、いいですか?
前に少しそんなことしてたことあるんです」
ボスは頷き、私たちも賛成した。
こうして事務所、そして倉庫の鍵はひなこの手によって小さな猫の形のペンダントとピンブローチに生まれ変わった。
律儀なひなこは溶かす過程をしっかりと動画に収めてまで来ていて、
「他人行儀な……」とボスから愛し気に頭を叩かれていた。
その様子を見ていたふたばと私はなぜか胸が一杯になってじんわりと涙が浮かんでしまったけれど。
そしてペンダントは私たちが、ピンブローチはボスと佐月さんがそれぞれもらうことになった。
質素な素材から作られているにも関わらず、
それはなんともいえない味があって、
私たちはひなこの才能に驚いたものだった。
こうして忘れがたい、思い出深い日々は過ぎてはいったものの、
ハセガワの行方は未だようとしてわからない。
そして「いなくなった咲良さん」とその身分を証す茶碗にまつわる話を聞くのはもっともっと後のことになる。
つづく
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