逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

11.鬼も内.1

 ドアベルがカランと鳴った。ちょうど事務所で書き物をしていた私は顔を上げ、ふたばに目配せする。
身軽に立ち上がり店に向かったふたばに続いてひなこもお茶の支度を始めた。
 
 間もなくふたばが事務所へ戻ってきた。珍しく困惑の表情を浮かべている。
 
「みいこさんお願いします。私ではちょっと……」
 
 ひなこと私は思わず顔を見合わせた。誰にでも明るく気の利いた会話ができるふたばは、私よりよほど接客が上手だ。
そのふたばが手に負えないということは――。
私は覚悟を決めて店に向かった。
後ろからお茶を持ってひなこが続く。
 
「いらっしゃいませ」
 
 その声に振り返った客は負のオーラに包まれていた。
ちらりと私とひなこを見て、また棚の上に置かれた抹茶茶碗を手にとり、じっと見つめている。
ひなこの「よろしかったらどうぞ」という声にも一言も返さない。
 
 ひなこに軽く頷いて退席を促し、私はその客の後ろ姿を見つめていた。
 
 年の頃は私とさほど変わらないようで、髪は驚くほどのベリーショート。
むしろ五分刈りと呼んだほうがいいかもしれない。
身なりは、というといかにも外出慣れをしていない主婦が思いつく限りの装飾品を身に着けてきた……
というといささか言いすぎだろうか。
 
 しかし全体のバランスや配色もあまりにもチグハグだった。
 
 そしてトドメは足元の子どものような「ズック」と呼んだほうがいいような靴。
先入観で人を判断しないこと――
これは昔も今も私が常に心がけていることではあるが、この客に関してはいささか常軌を逸しているように思われた。
 
 その上茶碗を見ながら彼女はずっと独り言を呟いている。
その声は私には聞き取りにくいのだが決して明るいものとは思われず、
内心その茶碗の行末が少々心配になってきた。
 
 客が手に取って見ているものをこちらが取り上げるわけにはいかない。
 
 しかしこの客に関しては今にもそれをわざと取り落としてしまいそうな危うさを感じる。
 
つづく
 
 

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風邪を引いていたので久しぶりの更新になってしまいました。

 

 

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