逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

11.鬼も内.4

 たしかその娘がアンティーク好きで、店のシンボルにもなっている螺鈿細工が施してあるグランドピアノにいたく執着し、
金はいくらでも出すから譲って欲しいと言ったはずで、非売品なので――と断ったことがあった。
 
 娘の方はぷりぷり怒り、また「ぱぱぁ~」と呼ばれていた相方のおやじさんはいささかほっとした様子を一瞬見せた。
 
「仕方がないやつだな。また同じようなのを見つけてきなさい」
 
「もう~、こんな田舎じゃ無理よ、ぱぱぁ~」
 
「よしよし、今度もっと大きな店に連れってってやるよ~」
 
「ぱぱぁ~約束よっ」
 
 と指を絡ませながら出ていった二人を、とりあえずは曖昧な笑顔で見送った覚えがあるのだ。
 
 そうか、あのときのいささか貧相な「ぱぱぁ」がかの内藤社長で、五分刈りクレーマー夫人の夫か。
して、あの娘はどちらにも似てないところを見ると血縁関係はないだろう。
 
 うーん、とりあえずは明日。ボスが戻ってからの算段だ。
この手の大人の采配は「十歳」の私にはちと手に余りすぎる。
 
 
***
 
 
 明くる日、二泊三日の取材旅行から戻ったボスは、呆れ返る位のお土産を買ってきていた。
咲良さんへはもちろんのこと、最所や京念、るりこ姉さん、塀のむこうやら黒猫家やら表通りのお歴々、
さらには猫たちに至るまで思わず吹き出したくなるくらいの量で、
そこかしこで土産を吟味している姿を想像してなんとも胸が暖かくなった。
 
 ひとしきり旅の話で盛り上がり、その後ひなことふたばは各々土産を配りに出かけていった。
そして昨日の客とのやり取りを報告した。
かの内藤夫妻とボスとの関わりもある程度知っておかねばボスに恥をかかせることになりかねないからだ。
特にふたばやひなこしかいないときもあるわけで、その場合の対処も考えておく必要がある。
 
 黙って話を聞いていたボスは
 
「みいこさんはどうしたい?」
 
 と聞いた。
 
「どう思ったかの?」
 
「私は……」
 
「わしのことよりも、みいこさんがしたいと思ったことを言ってごらん」
 
「私は……お気の毒に思えました。なんだか背中から悲鳴が聞こえてくるようで……」
 
「それで?」
 
「お話を伺って差し上げたいと……」
 
「思い出を仕入れるということかの?」
 
 そうだ。そういうことになる。はじめに業務の一つとして、
というより主な業務として提示されていた「思い出話の仕入れ」に関して未だに経験していないのである。
 
 掃除だリニューアルだ、正月だ節分だと日々の雑務に追われ、設けてあった思い出ばなしの仕入れブースは未だ使用されていないままになっている。
金庫の中の仕入れ金もそのままだ。
 
 
つづく
 
 

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