逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

11.鬼も内.5

「思い出の仕入れになるかどうかわかりません。
ただ……なにか事情があってなにか言葉にできない想いがあってここにいらしたような気がします」
 
「そうか――じゃあみいこさんの思い通りにやってみたらいいんじゃないかの」
 
 そしてボスは深く頷き、
 
「五分刈りおばさんが来たらわしも会ってみようかの。声掛けてくれるかの」
 
 そう言って片目を瞑り、自身の書斎――咲良さんの部屋に向かった。
 
 その後ろ姿を見送りながら私は新たな覚悟を決めた。
逢摩堂は単なるアンティークショップではなかった。
私たちは思い出を仕入れる、思いを受け取るという業務が第一番に課せられているのだということを改めて思ったのだった。
 
 戻ってきた二人にも私はボスとの会話をかいつまんで話した。
 
「そういえば……忘れてましたね。大切なこと」
 
 ひなこがぽつりと言った。
 
「本当に。ついでに金庫のお金もすっかり忘れてました」
 
 ふたばが笑った。
 
 そう言えば勤務初日、二日目とドキドキしながら金庫の中身を確認していた私たちであった。
その後は確認すらしたことがなかった。
 
 もっとも、事務所は常に誰かがいて安心しきっていたこともある。
また月に一度は最所と京念がチェックしていたし、ボスも常にいてくれているという今の状況もあるけれど、
明らかに初心を忘れかけていたことも事実で、私たちは深く反省することになった。
 
 ほどなくしてドアベルが鳴り、件の内藤夫人が現れた。
 
「本日もご来店いただき、ありがとうございます」
 
 私は一段と丁寧に夫人に頭を下げた。
続いてひなこがこれまた一段と丁寧に入れたに違いないお茶と、ボスの土産の一つでもある干菓子を添えて現れ、
仕入れブースと決めているゆったりとした応接セットのデスクに体裁よく並べた。
 
「奥様、よろしかったらお掛けになってくださいませ」
 
 そう声がけをし、夫人の着席を促した。
ふたばはボスの元へ来店の報告に行ったのだろう。
 
 昨日より一層へりくだった態度の私たちを見て、内藤夫人は「そう」と大様に答え、ソファに腰を下ろした。
それから目の前に置かれた湯気の立つお茶を一口すする。
 
「なかなかおいしいわ。あなたが淹れたの? どこで学んだのかしら? 
でも時間がちょっと長いわね。渋みが出てる。
まあ――もっともそこまでわかる人はいないでしょうけど」
 
「教えてくださってありがとうございます。もっと精進いたします」
 
 そう言ってにこりと微笑んで退室したひなこに「よくやった!」と肩をたたいてやりたい衝動に駆られたが、
ひなこ同様「お教えありがとうございます」とにこりと笑ってみせた。
 
「でもこの干菓子は上物ね。あなたが選んだの?」
 
「いえ、これは――」
 
 そのとき、暖簾をわけてボスが出てきた。いつの間にか和服に着替えている。
 
「ああ、それはこの爺が買ったものですじゃ。お気に召しましたかの?」
 
 
つづく
 
 
 

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