11.鬼も内.10
「だから私は厄介者。きっと実家でも厄介者だったのね、私。
だから私だったのね。妹もいたのに……」
「私の一日はもっと忙しくなった。子守も増えたから。毎日毎日馬車馬みたいに働いて。
でも私も年頃になって内藤へ嫁に行った――いえ、行かされた。
伯父はそりゃあたくさんの支度をしてくれたわ。
お金にならず、倉庫に眠っていたガラクタの焼き物をごっそりとね」
彼女は鼻先で笑った。
「それでも内藤の家は喜びました。それが目的だったんでしょうね。売ればお金になると思ったんでしょう。
でも売れない――売れたところで二束三文。
どれだけ嫌味を言われ続けたことか。
仲人口に騙された! なんの取り柄もない嫁だ! ってね」
実は以前第一倉庫に夫人の伯父という人の作品がごっそりと床に積まれていて、
それをひなことふたばがボスの許可のもと処分したのを私は黙っていた。
実際、素人目から見ても箸にも棒にも掛からない駄作だったのだ。
そしてその折に出てきたこの黒楽だけが残したいと思ったものだった。
「このお茶碗は……?」
手に取った私の手から、彼女はその茶碗を素早く奪った。
「これ買いたいのよ! だから来たの。
一体いくらで仕入れたの? いくらだったら買い戻せるの?」
「お父様の作品とおっしゃいましたね?
おいくらならお買上げになられますか?」
私は静かに尋ねた。
「父は無名だった。でもね、これはね、私が嫁に行く前の夜に父がそっと持ってきてくれたものなの。
お前のために焼いたんだって。お前を思って作ったんだって。
私のために……なんていうものは今まで持ったことがない。
私のことを想って……
なんて今まで経験したこともない、私にとっては宝物なのよ!
今となってはたった一つの形見なの。
私にとってこれは父そのものなの。
みすぼらしい、うだつの上がらない……でもそんな父の作品なのよ」
「なぜそんな大切なものをお手放しになられたのでしょう?」
なおも静かに私は尋ねた。
「なぜ守ろうとなさらなかったのですか?」
彼女は言葉にぐっと詰まったようだった。そしてぽつりと呟いた。
「恥ずかしかった」
「恥ずかしかったのよ。こんな惨めな作品しか持たせられない父の実家が恥ずかしかったのよ」
つづく
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