逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

11.鬼も内.11

「この作品の銘はご存知ですか?」
 
 私のその言葉に彼女は意外そうな顔をした。
 
「銘……?」
 
「銘なんてあったの? こんな名もない人のものに?」
 
「奥様のお父上はきっとたくさんの……色々な想い。
それは焦りだったり口惜しさだったり妬みだったり――そんな人間であったら誰しも持っている想いを全て、全て受け取り、受け入れて生きられたのだと思うのです。
そしてそれらの想いを愚かであるとも決めつけず。
むしろそうであるべきと」
 
 私の言葉に夫人は静かに頷きながら聞いていた。
 
「そしてその上でご自身を見つめるように、と。
この茶碗の銘は『鬼も内』と申します」
 
 彼女の唇が震えた。
 
「鬼も内……」
 
「すべてを受け入れ、受け取り、愚かでもよいと? 自分を見つめるように?」
 
「素晴らしいお父様ですね。お会いしたかった」
 
 私は黙って黒楽を黄金布で包み、
桐箱に納めて丁寧に真田紐を掛けた。
 
「このお茶碗はきっと奥様の元へ帰りたがっていることでしょう」
 
「……え?」
 
「お値段のつけようのない思い出話のお代金として、
このお茶碗でお支払させていただいてよろしいでしょうか」
 
 もはや外はすっかり日が暮れきっている。
 
 夫人の目からまた大粒の涙がほろほろとこぼれ落ちた。
 
***
 
 深々とお辞儀をして立ち去る彼女の後ろ姿が見えなくなるまで、
私とひなこ、ふたばはずっと見送った。
 
 また風に乗って小さな雪片が舞ってきた。
 
 明日は節分である。
 
 
つづく
 
 
 

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ちょっと短め更新です。

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