11.鬼も内.12
さて節分の夜。
習わし通り柊の枝に鰯の頭を刺し、炒り豆を用意した私たちだったが、
いよいよ豆まきを始めようとしたときにひなこがぽつりと呟いた。
「追われた鬼さん、どうなるんでしょうか?
外は雪が残ってるし……寒くないでしょうかね……」
「鬼パンツしか履いてませんよね……」
ふたばが大真面目にそれに続いた。
この二人、先日の「鬼も内」事件が余程心に残っているものとみえ、
以来「鬼」に関してはやたら叙情的に反応するのだ。
「でもこれは一応習わしだから……」
私はそういいかけたのだが、その時点で寒風に晒され、ほとんど素裸で町の角々に足踏みしながら立っている鬼を呆気なく想像してしまって
「鬼は外」という言葉が出なくなってしまった。
私たちは思わず顔を見合わせたが同時にお互いの想いがわかってしまい笑いだしてしまった。
「ま、いっか。なんでもあり~ですよ、この際!」
そして通りに向かって大声で
「福は内! 鬼も内! 妖しも内!
猫も狐も狸も、カワウソ、カッパ――えーっと、とにかくみんな内!
寒いものたちみんな内!! 寂しいものたちもみんな内!!」
いつの間にかシャッター通りもみんな大きく戸口を開けた。
「みんなみんな内! みんなまとめて面倒見るぞ~!」
会長の声である。
「まとめて面倒見るぞー!」
と、みんなで唱和する。
「帰ってこーい! みんなみんな帰ってこーい!」
今度はボスのガラガラ声が音頭をとる。
「帰ってこーい!」
またまたみんなで唱和する。
「ここは戻ってこれるところじゃぞ~!」
ばあさまが声を張り上げた。
「戻ってこれるぞー!」
唱和する声はまたまた大きくなった。
「はあちゃーん! 聞こえる~!? 帰っておいで~!!」
私たち三人は尚も大声をあげる。
「ハセガワー! 帰ってこいよぉー!」
最所と京念が叫んだ。
「帰ってこーい!」
「帰ってこぉーい!」
誰一人として笑ってはいなかった。みんな大真面目だ。
しばらくしてシャッター通りの入り口にパトカーが停まり、
渋い顔のるり子姉さんが走ってきた。
「ったく! こんなことだろうと思った。はいはい解散解散。
街外れから大声で叫ぶ声が聞こえる、何かあったのかって
苦情の電話がジャンスカ来てんの!!」
「ところで私の分もあるでしょうね!」
そう言って豆をちらりと確認し、
「後で来るわよ!」
と片目をつぶり、
「はいはい、解散解散。はいはい、なんでも来ていいのね、帰ってこいね、わかったわかった」
そう笑いながら皆をなだめ、各々をシャッターに押し込んで慌ただしく去っていった。
つづく
本日もご覧いただき、ありがとうございます!
なんだかグッと寒くなってきちゃいましたね…
お体ご自愛くださいね。
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