12.白黒.5
もう一方のハセガワの行方。こちらは京念、ひなこ、そして私の担当。
ひなこも情報を仕入れてきていた。実は近郊の小学校で飼育されていたウサギの耳に、
同じような矢が刺さっていたという事件がまた起こったということである。
こちらの方はほんの少し耳が欠けただけで大事に至らなかったのだが、
矢の方は小屋に残っており、その形状が小雪に刺さていたそれと同じだった。
第一発見者はたまたまその近くを通りかかり、動物好きなので思わず小屋に近付いたという青年だったそうだ。
ガムをクチャクチャと噛みながら
「なんか耳にケガしてるウサギいるし、近くに矢みたいなの落ちてるし、なんだろうって思っただけだから」
と証言した青年は、小屋に入ろうとしたところを用務員のおじさんに見咎められ、「あとは何も知らないから」と言ったという。
その時野次馬のごとく集まっていた児童の一人が
「あ、ヤブの馬井先生んちのお兄ちゃんだ」と去っていく後ろ姿を見て叫んだらしい。
その声で振り返った青年は怖い顔をしてその児童を睨みつけ、自転車でその場を離れたということだった。
この話は叫んだ児童の母親がひなこの先輩にあたり、
たまたま町で出会い、お茶を飲んだときに聞き込んだらしい。
「たっちゃん元気?」
「ええ、なんか学校が楽しくて仕方ないらしいわ」
といった日常会話から偶然に得られた情報だった。
そしてもう一つ。
もともと馬井医院は牛や馬といった大きな動物――
いわゆる家畜の診療を専門としており、
小動物の扱いはどちらかというと不得手なのだそうだ。
そのせいもあってヤブと陰口を叩かれているのは気の毒な話なのだが、一方で吹き矢の競技では常に上位入賞を果たしているのだという。獣医師と吹き矢は案外密着した関係にあったのだ。
ここまでの情報を得た私とひなこ、京念は思わず腕組をした。
目に見えない根の深さが感じられる。
そしてなにより、今も毎日ハセガワの帰りを待ち焦がれている黒猫家――とりあえず、やはり馬井医師のもとへ行こう。
さり気なく、そして慎重に。
つづく
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