逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

12.白黒.7

 るり子姉さんの「さりげない」聞き込みによると、ハセガワの誘拐犯は件のチワワおばさんの甥っ子のようだ。
恐らくは首輪こそ着けてはいたが楽しげに散歩している人懐っこい猫を撫でているうちに、病気で泣いてばかりいるお姉ちゃんに見せてやりたいという子どもらしい発想だったに違いない。
 
 ところが若干もがいて離れたがった猫はお姉ちゃんを見た途端優しく手を舐め、そして涙を舐めてそっと傍らに寄り添ったらしい。
その後はチワワおばさんの話通りの展開なのだった。
 
 再びうーんと腕組みをした私たちだったが、
猫たちに任せてみようか、とふと思いついた。
 
 猫たちに任せて人間は手助けのみにしようか。
きっと丸く収めてくれるのではないだろうか。
しきりにそんな思いがする。
 
 決して悪意がなかった弟と柔らかな猫の気配りに心を寄せ、心を開いて強くなった姉。
この二人を傷付けず、そして黒猫家に無事ハセガワを帰すこと。
 
そこには人の姿が無い方がいいだろう。
 
 明くる朝、集ってきた猫たちは平蔵を先頭に五、六匹。
そこで私は平蔵に事の仔細を話して聞かせた。
黙って猫たちが尻尾を動かす。
 
「お願い。うまく、丸く収めてくれる?」
 
 頷きこそしなかったが、わかってくれたという妙な自信があった。
その証拠に「行くよ」という声に、京念が用意したワゴン車に次々と猫が飛び乗り、
最終的には通り猫全員が車中にあって私たちは顔を見合わせ微笑んだ。
 
「そうだね、みんなでハセガワを迎えに行こう!」
 
***
 
 町の外れ。るり子姉さんの地図はアバウトだったが、
赤い屋根が特徴的な家はすぐに見つかり、
私たちは離れた空き地に車を停めた。
 
 そして平蔵に「あそこだよ」と教えるより先に猫たちは一斉にその家目がけてまっすぐに走っていく。
その様子をそっと電柱の影で見守っていると、その家の前で猫たちは座り、
全員で優しく鳴き始めた。
 
 しばらくしてドアが開かれ、猫を抱いて杖をついた少女と小さな弟らしき少年が驚いて棒立ちになっている。
 
 猫たちがまた優しく鳴く。
すると少女の腕から猫がするりと地に降り立った。
そして目の前の猫たちに向かって嬉しげに走り寄る。
 
 迎えた猫たちは皆その黒猫――ハセガワに擦り寄り、額を合わせて優しく舐めている。
 
 平蔵とハセガワが姉弟と向き合い、なぁーごと鳴いた。
それを聞いた姉と弟は泣き出し、
しゃがみ込んで猫たちに「ごめんね、ごめんね」と泣きじゃくりながら謝っている。
 
 猫たちは一斉に優しく鳴いた。そして踵を返してこちらに向かって走り出す。
 
 最後尾は平蔵とハセガワだ。もう一度姉弟に向かって優しく一声鳴き、二匹は嬉しげにこちらへ向かってきた。
姉と弟は「ありがとう、さようなら」と手を振っている。
何度も何度も「ありがとう」と叫んでいる。
 
 ハセガワが足を悪くしている?――とんでもない。
今やハセガワは羽が生えたかのようだ。
 
 猫たちは私たちが大きく後ろを開けた車に一目散にジャンプして飛び乗り、
十五匹の猫を乗せて黒猫家へと向かった。
 
 マンションの黒猫家夫妻が住む部屋の窓の下で、そっと再び猫たちのためにドアを開けてやると、
今度は車に乗ったまま賑やかに猫たちは大合唱を始めた。
 
 そこで私たちはハセガワを降ろし、バックミラーでそっと様子を見ていると窓を開けた夫妻の腕の中にハセガワが飛び込んだところだった。
 
 それを見届け、私たちは静かにその場を離れたのだった。
 
 
つづく
 
 
 

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