夜咄2
「ほい、狐に化かされたかの?」
「ここはどこじゃ?」
こんこんと眠り続けること二昼夜。ぽかんの目を開けたボスに、私もひなこもふたばもどんなに安心したことだったろうか。
寝不足の、そしてすっぴんの三人を見て
「心配をかけたみたいじゃの。すまんすまん」
とボスは笑いかけ、うーん、なかなか死なんもんじゃの――と呟き、
「引っ掻きますよ!」
とひなことふたばから叱られ、私はただただ涙を流していた。
中度の脳卒中と診断を受け、一ヶ月の入院を経て車椅子で退院したボスのために、急ピッチで逢摩堂のバックルームはバリアフリー化したのだけれど、時々こんな形でお呼びがかかる。
「早く歩きたいのう」
「さっささっさと散歩したいのう」
ボスは歯がゆいらしく、時々溜息をつくのだが、私たちは
「ゆっくりゆっくり、ゆっくーりですよ」
そう釘を差し、小雪にも黙って出かけそうになったらすぐ知らせてね、と頼んである。
さてさて、ボスの用事といえば今度黒猫家で行われるボスの快気祝いを兼ねた茶会の室礼についての相談だった。
「年の瀬、忙しいときにすまんこっちゃだが、今年の内に厄払いもしとこか、と思うし、黒猫家の茶室の披露も兼ねておるし、まあ、身内だけでゆっくりやろかの」
ボスは楽しげに道具を選んでいる。私はこの時間が大好きだった。長い間培われたボスの目利き。物の価値を見る力。そしてその道具にまつわる逸話などを聞いていて本当に飽きることがない。
「みいこさんにはわしの知っとること、全部話しとかんとな。どんどん忘れてしまうしな」
その他に、ひなこには彫金を、そしてふたばにはデッサンを――各々ボスから手ほどきを受けてどんどん上達しているのだ。厳しくもボスの教えはわかりやすく、時間はごく限られていたが、この時間は私たちの最高の楽しみになっている。暗黙の了解で、この時間は極力邪魔しない、がルールになっており、私は心ゆくまで道具選びを楽しんだ。
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