逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

夜咄7

 歩き出した私たちを見て


「あらあら、もっと歩幅を小さく!」
「ほれほれ、肩をいからせない!」


 などと、ドアを出るまで大騒ぎだったが、黒猫家に到着する頃にはようやくなんとか歩き方も様になってきた。


「雪輪ですね。よくお似合いですよ」


 京念が微笑んだ。


「ありがとうございます。でも、これは……なぜですか?」


「機が熟した……ということですかね」


 と、意味深な答えが返ってきた。


「どういうことですか?」


 その問いにまた微笑まれ、私は答えを聞けないまま黒猫家に到着した。


 こぢんまりと造られた茶室はさすがボスと黒猫屋の主人が意匠を凝らしただけのことはあり、簡素な中にも重厚さが感じられるものだった。


 ボスのアドバイスのもと私が選んだ道具類もしっくりと馴染んでおり、ほっと胸を撫で下ろしたものである。


 招かれている面々を見ると全員ほとんど顔なじみの中に四、五人ほど見知らぬ顔もあり、これはボスの古い友人か、もしくは黒猫家に縁する人たちであろう。


 厳粛な中にも和やかな楽しいお茶会の席も終わりに近付いた頃合いに、ボスが件の三種の茶碗で「もう一服」と勧めた。


「ちと、掟破りになりますかの」


 ボスは笑い、出席者は一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、鬼太郎会長が


「おうおう、喜んで。ただしこの後もうんとお茶けは頂かんといけんので程々にな」


 と陽気に笑った。

 


「ぜひとも所望したいものです」


 今までほとんど会話に加わることがなかった見知らぬ顔の男が低い声で言い、その両隣に坐った二人の男たちも大きく頷いた。


「では……」


 ボスはゆったりと美しい所作でお点前をし、件の茶碗は三人の男たちの前に次々と置かれる。


 一服の茶を作法通りに飲み干した男たちは、やはり作法通り上半身を傾けると、じっくりとその茶碗を吟味している。


「これが例の……」
「そうです。これが、それですじゃ」


 短い会話の後に茶碗は戻された。なんということもない一連の流れ。まあ確かに最後の最後にまたお茶を一服というのは茶会の作法には型破りなのかもしれないが、身内の茶会、ないこともないのかと茶道に疎い私は思ったし、最所、京念、るり子姉さんとは席が離れているし、その上ほとんど無我の境地で慣れない和装と戦っているしで、椅子席ではあったが終わったときはほっとした私だった。

 

 

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