逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

夜咄9

 それからしばらくして


「おほん!」


 と咳払いをしたのは鬼太郎会長である。


「ささ、静粛に静粛に……」


「さて、本日はお日柄も誠に目出度く、皆々様方におかれましては益々ご清栄の程、おん、おめでとうござりまする」
「また、本日は賑々しくご来場を賜り、おん、お礼を申し上げまする」


 だめだ、この手は長くなる――と内心嘆息が出そうになったところで目玉親父がうまい合いの手を入れた。


「司会者様におかれましては、おん、短めにお願い致しまする~」


「ぜひとも御願い上げ奉りまする」


 と、これも通りの酒屋の親父さんが続いた。なぜかバックミュージックには雅楽が流れている。


「待て待て、わしゃあ川尻組の親子盃の様子をネットで何回も何十回も見て研究したのだからして、ちったあ真似させてくれんか」


 そうか、この大仰な室礼を見てなにか怪しいとは想像していたが。


「待ってました!」


 大向うから声がかかった。バックミュージックは変わり、今度はド演歌。


「ストーップ!!」


 るり子姉さんが声を張り上げる。


「いい加減にせんかい!」


 若僧ではあるが一応現役の刑事である。しかもその筋専門なのだから、一応鬼太郎会長は黙った。


「じゃがの、ちったあ筋目を通させてくれんか。この三人娘の門出じゃから。わしら、この娘たちが可愛いてならんのじゃから」


 ぐちぐちと小声になる。


「相わかった。お心遣い恐れ入る」


 ボスが重々しく言葉を継ぐ。


「しかし、なんじゃの。もうちっと簡略にいかんかの。取持人、どうじゃ?」


 最所がすくりと立ち上がる。そして京念、るり子姉さんが同時にそれに続く。


「取持人、という名称が私どもに当てはまるか否かは別といたしましてぇ」


 おなじみの語尾上がり名調子で、しかしその凛とした声音は広間のざわつきを一瞬で鎮めた。


「経緯を簡単に説明させていただきます」


「テーブル中央をご覧ください。ここには雪、月、華と各々和銘がつけられている三つの茶碗がございます。これは、とある国の王族が古来より門外不出として永きに渡り脈々と伝えてきたものです。そして皆様、これは皆様にとって非常に思い出深い、ある女性が母国を出るときに持ち出したものでもあります。この国で国難に出会ったときに必ずや力になってくれるはずのもの……と託した人の並々ならぬ想いのもと、その女性と、その女性に縁する五人の娘さんたちが守り抜いてきた品々なのです。残念なことは、その女性たち六人がそう信じて、いわゆる文化交流と信じて来日したにも関わらず、その現実はあまりにもかけ離れたものでした」

 

 

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