逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

夜咄10

 佐月さんが「うっ……」と嗚咽した。マスターが肩を撫でている。座はしーんと静まり返っていた。


 最所の声は続く。


「そしてその後の悲劇についても、ここで蒸し返す必要はないものと思われます。ここにおいでの皆様方は、一日たりともお忘れになってはおらず、ずっと苦しみを共有なさっていらっしゃいました。そしてその苦しみの歳月が時として心の溝を作ってしまったことも事実です」


 ここで最所は言葉を切った。大広間のあちこちからすすり泣きの声が聞こえる。


「長かったのぉ……本当に……」


 やまんばばあさまが独り言のように呟き、鼻をすすった。


「なんじゃなんじゃ、皆して湿っぽい! 今日はそんな山河を乗り越えてのめでたい日なんじゃ!」


 鬼太郎会長が声を張り上げる。


「そうだそうだ、会長の言うとおりじゃ! もう十分わしらは喪に服したし、あれらも許してくれとるわい。だから、わしらにこの三人を引き合わせてくれたんじゃ」


 と、目玉親父も叫んだ。


「そうだ」「そうだ」と広間のムードは明るくなり、事の成り行きに下を向くしかなかった私たちもようやく顔をあげた。


 その折、先ほどの三人が私たちを凝視しているのと目が合った。そして慌てたように下をむくのも。今度は背筋にぞわっと寒いものが走る。


 広間の雰囲気に最所はにこりと笑って話を続けた。


「そうです。では話をもう少し続けます。――さて、かの茶碗は、このような経緯のもと逢摩氏に託された――預けられたのです。そして逢摩氏は大切に大切に保管してこられた。その理由の一つに、以前王族の姫君であった、かの咲良さんと生前に交わした約束があったからなのです」


「え?」


 これは意外だったとみえて、大広間はまたもやざわついた。


「そうなのです。帰る場所がないと悟った咲良さんは、逢摩さんに託したのです。いつか――いつかこの品に相応しい人物に出会えたら、この茶碗を与えて欲しいと。そしてできればこの品々を静かに、あるべき姿に戻して欲しいと。この言葉を重く受け止めた逢摩氏は、できるだけその価値を知らない――言い換えれば歴史的、美術的価値、それに付いた値段といったものを通してではなく、心の価値でこの品々を見ることができうる人を探していらしたのです。特にこの茶碗は三つ揃って真の価値があるのですが、できれば各々三人の人たちが持つように――そんな話を咲良さんはなさっったそうです」


 ここまで話して最所は軽く咳払いをして、なおも話を続けた。


「逢摩堂にはしょっちゅうお手伝いの方がいらしてましたね。覚えておいででしょうか、みなさん。その人たちがすべてひなこ、ふたば、みいこと呼ばれ、そしてほとんど半年もたたぬうちにいなくなってしまったのを――」

 

 

あけましておめでとうございます!

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

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