逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

ひいふうみい4

 そんな折に例の吹き矢事件で道を外しかけ、心底手を焼き、手をこまねき心配していた一人息子を見事な形で更生させてから私たちに並々ならぬ感謝と尊敬の念を抱いている、例の馬井獣医師から「恐れながら……」とふたば宛に一件の縁談話が持ち込まれた。


 あの事件以来、四季折々届け物を持参したり、ボスとの共通の趣味である碁やらで私たちとも親しい間柄となっている。


 ちなみにやはり一連の事件の犯人であった息子はというと、今や勉学に励み、父の跡を継ぐべく頑張っているそうで


「目の色も姿勢も変わってくれました。皆さんにはなんとお礼を申し上げればいいものか……」


 と今でも涙ぐみながら話す。


「いやいや、なになに」


 その都度ボスは手を振ってさり気なく話題を変えてしまうのだが、たしかにあのやり方はちょっとやそっとでは忘れられないはずで、今や彼が心の底から生き物に対して畏敬の念を持つのは当然であっただろう。なにせ森羅万象の最高神からのお告げがあったのだから。動員したエキストラ、自主的に参加したらしい怪しの面々の数は半端ではなかった。


 それはさておき縁談の内容はというと、馬井医師の先輩にあたる人の息子で、獣医師ではなく、人の医師なのだが子どもの頃からその人柄はよく知っており、信頼に値するし、また医師としての腕もなかなかのもので……と口下手な馬井医師としては熱心に語ったものだった。


 ここに出入りしている内に、ふたばの明るさ、気遣い、そしてなにより正義感の強さと古風な考え方にすっかり惚れ込んだらしく、あの彼とならば――とすっかりストーリーが出来上がったらしい。


「ふむふむ、ご先祖さんはなにをしておいでじゃった?」


 ボスが話を合わせる。


「これが実は代々農家――いわゆる大地主だったそうで」


「ほうほう」


 当のふたばはあいにくお休み日で、久しぶりに映画を観に行くと出かけており、なんとはなしに私もひなこもじっくりと馬井医師の話に付き合うこととなった。


「まあ、こればかりは本人が決めることですからの」


「何卒何卒、逢摩先生からもお口添えをお願い致します。先方もぜひ一度お会い出来たら申しておりますので」


 託されたという写真やら釣書やらをこちらへ押し付けて帰っていく後ろ姿を見送り、私たちは事務所に戻った。

 

 

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