逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

ひいふうみい11

「ふーたちゃん! ひーなちゃん!」


 やはりふたばはそこにいて、その側にひなこがいた。二人は子どものように足を投げ出し座っている。夜空を見上げながら座っている。


「いーれて!」


 そう言って私もふたばの隣に座る。


「風邪ひくぞ、ふたりとも」


 三人で毛布をすっぽり被る。しばらくしてふたばがぽつりと言った。


「父さんたちは?」


「うん――たぶん事務所で大反省中」
「きっと今ごろ青菜に塩」
「ていうか、まだグズグズ小声でやりあってるかも」


 事務所に残された二人のその後が容易に目に浮かぶ。


「さむーい!」


 ふたばが私とひなこにしがみついた。


「さむーい!!」


 私たちもふたばを抱きしめる。


「寒いけど暖かーい!」


 ふたばがそう笑い出すと


「お決まりのホームドラマかマンガみたいだね」


 ひなこがそう言って笑う。


「そうそ、こんなうまい具合にいかないよねって突っ込みながら観てたやつね」
「でもさあ、本当はどこかで憧れてなかった?」
「そう、こんなにうまいこと行くはずないよって重々思いながら、こんな風になればいいのになぁって」


 私たちはそんなことを話した後、しばらく黙り込んだ。


 こんな風になるわけない、こんな幸せあるわけない。いつの間にそう学習したのだろう。いつの間にそう思い定めてきたのだろう。誰が教え込んだというのだろう。


「逢魔時堂マジックかな」
「咲良さんマジックかな……」


 ふたばがそうつぶやいた。


「では」


 私は魔法使いのように重々しく言った。


「いざ帰りなん、我が家へ。すべて魔法が解けぬうち」


 そして厳かに命令した。


「ふたばよ。とっとと素直になるがよい」


 その言葉にひなこも続いた。


「ふたば、ここでは一目散に幸せになるしか方法がないぞよ」


 黙って私たちの言葉を聞いていたふたばが


「姉ちゃんたち〜」


 と子どものように泣き出した。

 

 

「ああ、やっぱりここにいたのね」


 柔らかな声が降ってきた。佐月さんだ。


「私もいーれて」


 その声とともに毛布がまたふわりとかかる。


「押しくらまんじゅう、押されて――笑え。だわね」


 そう言って佐月さんがコロコロ笑う。


「ふーたちゃん」


 佐月さんがふたばの頭を優しく撫でる。


「どうしてここが?」


「ふふ、最所先生がね、前に話してらしたの。あなたをここで見かけた。一人で泣いてたって」


 佐月さんはそっと言葉を重ねた。


「ふたばさんは、いつもあんな風に一人で泣いていたのかなぁって話ながら男泣きしてた」
「そしてね、あなたが逢摩さんの娘になる前になぜ打ち明けなかったんだろうってずっと後悔してた」
「逢摩さんはそのこともわかっていて――だからわざと先生に意地悪してらっしゃるのよ。そんなこと取るに足らないことなんだってね。ふたちゃんはふたちゃんだから変わらない。そしてそれが一番大切なことなんだって。そのことをきっと逢摩さんは言いたいんだと思うのよ」
「そしてそれはね、きっと若い時の自分の過ちと重ねているんだと思うのよ」


 佐月さんの言葉にふたばは「はい」と素直に頷いていた。


「でも、私なんかで本当にいいんでしょうか……」


「では本人に直接聞いてみなさい」


 佐月さんは毛布を剥ぎ取った。


「さっさとお父さんと最所さんのところへ行きなさい。あなたを心から大切に思ってる人たちが生きた心地もなく帰りを待ち焦がれてるわ」


 佐月さんが優しくふたばの手を取る。


「さあ、行きますよ」


 ふたばは泣きじゃくりながら佐月さんにもたれて歩く。そんな二人を冴えた月の光が照らしている。


 そして私とひなこも手を繋いで二人の後を歩く。私たちには帰る、帰れる場所があるのだ。待ってくれている人がいるのだ。

 

 

 

 

 

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