Who Killed Cock Robin? 3
「駒鳥? 駒鳥じゃと?」
ボスが呻くように呟いた。
「ひなちゃん、すまんがそれ全部読んでおくれ」
はい、とひなこがその歌詞を読み始めた。マザー・グースの中では異例なほど長いのだ。
朗読を続ける途中でボスの顔色が悪いのに気付いた。
「父さん、顔色悪いですよ。お疲れでしょう? 休みますか?」
小声でそう聞いたのだが
「いや、大丈夫だ」
と目を閉じたまま答える姿が妙に弱々しく、気になって仕方がない。
「――空の小鳥は一羽残らず溜め息ついてすすり泣いた」
ひなこの朗読が静かに終わり、しばらくの沈黙が訪れた。
「……話しておきたいことがある」
まるで時が止まってしまったかのような室内で、ボスが静かに呟いた。
「また今度でも――今日はお疲れでしょう」
心配するひなこと私の言葉を制止し、ボスは京念とるり子姉さんに
「あんたらも聞いておいてほしいのじゃ――いわば立会人じゃな」
そう言って、ボスは言葉を紡ぎ出すようにぽつりぽつりと昔語りを始めた。
***
なにから話したらいいのだろう。
もうかれこれ半世紀も前のことになる。
咲良と、そしてあの娘たちのことをわしも、そして通りの皆も忘れたことがなかった。
あれから随分探した。現場となった土砂の中はもちろん、山の中も――果ては鉄砲水の流れ込んだ川の上流まで。
――わしは、わしらは捜したんだよ。でも見付けることはできんかった。あれらは消えてしまった。そう、本当に消えてしまったのじゃ。
亡骸を見付けるのは辛いじゃろう。だが見付けられないのはただただ苦しいのじゃ。わしは、そしてわしらは段々と寡黙に、疎遠になっていった。口を開ければお前のせいだ、と互いに罵りあうのが恐ろしかったせいもある。
そうじゃ、わしは咲良に到底許されんことをした。
今のわしだったら絶対にすまいことを咲良にした。言うてしもうた。若さだけのせいにはすまい。
驕っておったのだよ、わしは。わしの器は貧相だったのじゃ。
祖国から売られたあれらの悲しみを、わしは理解しきれなかった。そんなもの、捨てればいいとわしは思った。お前たちをそんな目に合わせた、そんな連中のことなど忘れてしまえと思った。
この国で、この地で新しく生まれ変わって生きていけと、幸せにしてやると、どんな贅沢もさせてやると、望みはすべて叶えてやると。
通りの皆もあれらには優しかった。その一つには、通りの繁栄はあれらのお陰でもあったし、なにより皆気立てがとかったのじゃ。
昼間なんかは通りの皆にもよく馴染んで、時々店番まで買って出ておった。
片言の日本言葉が可愛らしいと言って、皆がわしらは仲良しじゃ、わしらはあんたらの家族みたいなもんじゃ――と言うておった。
◆
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