語り継ぐもの4
そして私はもう一つの、これもずっと引っ掛かっていたことを話しだした。実はずっと感じていたモヤモヤをひなことふたば、咲良さんに聞いてほしかったのだ。
通りの衆も、件の茶碗についての知識はほとんど無いと言ってもよい。
それは夜咄の夜の驚きぶりを見ても想像がついた。後日佐月さんでさえ「なにか大切にしているものがある」と聞かされてはいたが、その価値は知らなかったし、それ以上考えたこともなかったと言っていたのだ。
事実、逢摩堂に頻繁に出入りし、また、以前あのからくり棚に置かれていた三つの箱を見ていても全く無関心だった。
佐月さんでさえその程度だったのだから、ましてや事故以降に逢摩堂と疎遠になってしまっていた通りの人々が茶碗の謎や価値を知っていたとは思えない。
そんなことより、あの災害によって灯が消えてしまった賑わいが、そして手を尽くしても見付からなかった娘たちが――そしてその娘たちをいいように扱った挙句に見殺してしまったような自分たちの振る舞いが長年に渡って彼らを苦しめていたのだ。
そして誰かがこの呪いを解いてくれる――誰かがこの封印を解いてくれる、とまるで救世主を待つかのように息を殺して待っていたのだ。
咲良さんの部屋は開かずの間になった。これは佐月さんか逢摩氏から彼らにもたらされた情報だったのだろう。それがまた彼らを心から震え上がらせたに違いない。
その後に訪れたというお手伝いの女性たちも、逢摩堂での不可思議をことさら大げさに言い募ったのかもしれない。また、待ち焦がれていたメシアのイメージに合わないと彼らがわざと追い出しにかかった疑いもある。
そこに現れた私たちは、きっと彼らから合格点をもらったのだろう。その上咲良さんの部屋の封印もやすやすと解いてくれた。ようやく蘇生することができる――後付であろうとなんであろうと彼らが起死回生を図るには「神話」や「伝説」が必要だったのだ。正当な理由が必要だったに違いない。
しかしこんな愛すべき小賢しい小悪党たちに、ずる賢いはずの大悪党たちが揺さぶりをかけるとはどうしても思えない。
揺さぶりをかけたところで何も情報が出てこないのはよくよくわかっているはずなのだ。だとすれば、このような面倒なことはすまい。真っ直ぐに的を絞ってくるものではないだろうか。
私にはこのあたりがどうにもこうにも腑に落ちないのである。
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