逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

四月馬鹿

 さて、意外なことに新しい情報は京念からもたらされた。


 それはここのところずっと「振り回されている」感が強い彼のクライアントの話題からだった。


 古い馴染みの同業種からぜひとも、と紹介されたそのクライアントは、不動産業を幅広く手掛けている人物で、国内はもちろんのこと、海外のリゾート施設も多く所有しているということなのだが、最近は古書や骨董といった趣味にのめり込んでいるのだという。


 それもどちらかというと、仲間内での目利き自慢ごっことでも言うのだろうか。全国のがらくた市で掘り出し物を見つけ出すのに血道を上げているらしい。


 若い頃から趣味らしいものも持たず、仕事一筋だったが老境になってからのこの道楽には、周りの者たちも呆れながらも黙認している、と跡を継いだ若社長も苦笑いをしているという。


 往々にしてこういう人物にはほとんどライバルというものが現れるもので、この会長の場合は隣国の同じ年頃の人物らしい。


「まったく、どこで見付けてくるんだか。金に任せて、本当に嫌なやつだ」


 古ぼけた茶碗をしげしげと眺めながら、そう京念に愚痴った。今度は茶碗対決らしい。


 なんでも、その同好会のルールは年に一度テーマを決めて各々が自慢の品を出し、仲間内で優劣を決めるという単純なもので、今回の品は東北の古い商家の蔵出しで見つけた物で、かの戦国大名の側室が愛用していたのだ――という、いささか信憑性に乏しく、京念が見ても首を傾げたくなる品物だったのだが、別に正直に感想を述べて心象を悪くする必要もないわけで曖昧に相槌を打って聞いていたのだという。

 


「それがね、先生。この前のことさあ、いやぁ、溜飲を下げるっていうのは正にこのことだね」


 会長は思い出し笑いをした。


「なにがあったんです?」


 そう京念が尋ねるとなおもくすくす笑いながら


「あいつなあ、赤っ恥かきよった。ざまあみろだわ」


 なんでも逸品中の逸品と自慢たらたらだった古い焼物が、二束三文で土産物屋で売られているガラクタだったことが「自慢の逸品鑑定ズバリ」というその国の人気番組で明らかにされたらしい。


 本人推定価格の何億分の一という、番組史上類の見ない惨憺たる結果で、


「わはは、こんなこともありますよ。皆さん楽しんでいただけたら満足ですとも」


 と、その場は御大尽のごとく振る舞ったらしいが、怒りのオーラは凄まじく、現場は全員顔面蒼白、関係者はカチンカチンに固まったのは想像に難くない。


 なんでも番組プロデューサーと司会者、鑑定人はしばらく「入院」と称して雲隠れしたということだ。

 

 

 

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