逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

四月馬鹿.2

 

「それは……しかし、その方の身になれば大変なことですねえ」


 京念も話を合わせた。


「やはり、それだけ奥深い世界ということなのでしょうねえ」


 会長は茶碗を桐箱に戻しながら低い声音で吐き出すように言った。


「いや、あいつはどう見ても世間に憚る稼業に関わっとるに違いないから、痛い目にあっても同情する必要もない。大体において物の良し悪しはすべて金で決まると思い込んどる。まったく、骨董好きの風上にも置けんやつですよ」


 それ以上のことは口にしなかったらしいが、その後も厳格なことで定評がある会長にしては笑いが止まらなかったという。


 その話をじっと聞いていたるり子姉さんの目が細くなった。


「ちょいと、それ面白い」


 その反応に男たちも頷く。


「その会は今度いつ開かれるかわかる?」


 そのあたりは抜かりがない。京念によると都内の某料亭で毎年卯月一日に開催されるのが恒例らしい。四月馬鹿の日、もし偽物を掴まされも笑って済ませようという大人の洒落っ気でその日に設定されているそうだ。会員もそうそうたるメンバーということで、隠密裏に行われているわけでもないのだが、顔ぶれが顔ぶれなだけに敷居が高すぎると思われてしまうらしく、新しいメンバーが増えないのが会の悩みなのだという。


 例の御大尽は創立してから二、三年くらいした頃に、ぜひとも、と会に加わったらしく、かの老人はひと目見て相容れない思いを抱いたのだが、経済界の大物からの肝いりということもあり、不承不承入会に同意したということだった。


 この辺りまで京念は巧みに聞き込んできていた。


「ただかずちゃん! お・て・が・ら!」


 るり子姉さんは京念の手を握りかけたが、私やひなこ、ふたばの視線に気付いて慌てて手を引っ込めた。

 


「まずはその会とやらに潜入したいわね」


 るり子姉さんが腕を組む。その言葉に京念も頷き、話を進める。


「なんでも会員一人の推薦が必要だとか。そして創立メンバーの五人が全員賛同すれば正会員、四人以下だと準会員となるそうですよ」


 ふぅん、と全員頷く。と、なるとやはりなかなか入会規定は難しいのだろう。
「正会員と準会員と――会での序列はどう違うわけ?」


「いえ、なに。別になんということもなく、二次会のお座敷遊びで若い芸妓さんやホステスさんが隣に座ってくれるかどうか、ということらしいです」


 先程まで感じていた会の格式レベルが一段階落ちたような思いがしたのは私だけではないと思われる。

 

 

 

 

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