四月馬鹿.3
とにかく、その会が開催されるまであと一月あまりしかない。自然な形でその場に加わる方法はないものか。
その御大尽が何者なのか、事件との関連性があるのかどうかは別問題としても、私たち全員の動物的な勘が動いたからには探りを入れたい。
ひとつには、例の窃盗団の黒幕がどこの何者なのか未だに正体が突き止められていないせいもある。その筋では幻のミスターXと呼ばれているほどだ。
そのものずばりのミスターXとは思えないのだが、なにか手がかりらしきものが得られるかもしれない。ようやく「骨董品」という一つの共通点らしきヒントが与えられたのは確かだった。被害にあったのは古物商、蔵を持つ旧家、そして骨董の収集家が大半を占めている。
ああだこうだと話し合いは続き、最終的には正攻法で京念のクライアントでもある、かの会長の協力を仰ぐしかないだろうという結論に至った。
なにしろ堅物、頑固で知られた人物だ。下手な小細工をするより、ある程度事情を打ち明けたほうがこちらの思いが通じるのではないか、というのが全員一致した考えだ。
その話し合いのあとに、全権大使の役目を担って出かけた京念はなんと当の会長本人を伴って帰ってきた。まずは咲良さんの部屋で静かに頭を垂れ、事務所でひなこ作の抹茶茶碗で一服し、改めて周りを見渡して嘆息し、きちんと椅子に座り直した。
柊と名乗る会長は京念の話しから私たちが抱いたイメージよりずっと若々しく、実業家というより大学の教授のような雰囲気を漂わせた紳士である。
「京念先生からあらましのお話を伺ったときは半信半疑でした。そんな非科学的な話がこの今の時代にあるとは思えなかったのです」
彼はもう一度周りを見渡し、そして足元にまとわりついて甘えてくる猫たちに当惑しながら「こりゃまた随分人懐こい」と微笑んだ。
「でもこちらに来て、皆さんにお会いしてすべて本当の出来事なのだと信じることができました。よろしい。私ができる限りのご協力をしましょう」
と力強く語り、
「して、私は何をすればよろしいか」
と膝を進める柊会長は店頭に現れたときよりもっと若々しく見える。
私たちは恐縮しながらも作戦の内容を話した。
ふむふむ、うーむと時折首を傾げたり、腕組をしたりと聞いていたのだが、
「ともかく、その茶碗を一度見せてもらえませんか? さぞかし見事なものなのでしょうな」
と言う。
その言葉にボスが頷き、身軽に立ち上がった京念の後ろ姿を見送りながら、はたと大変なことに気がついた。思わずひなことふたばの顔を見たのだが二人とも私の視線に気づかない。
こほんと咳払いを一つすると、ようやくはっとしたひなことふたばが立ち上がった時には京念が箱を大切そうに持ってきたところだった。
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