四月馬鹿.7
夕方、ささやかなリフレッシュタイムだったがすっかり元気になった私たちは逢摩堂へ戻り、しばらくすると上京組から第一報が入った。
「首尾は上々。追って詳細」
とある。まるで電報のようなメールである。
こう、なんていうか――もうちょっと具体的に書けないものか、とイライラするのだが、首尾は上々という文言にとりあえずは胸を撫で下ろした。
その五分後には「稀代の詐欺師。惚れ惚れする口上」と第二報が入った。
計画によると例の会が開かれている会場の隣の部屋に、ボス、最所、京念が詰めることになっており、襖越しに聞こえる会話に耳をそばだてているらしい。
それから小一時間ほど経った頃、ハラハラしながら待っている私たちに届いたのは「第一ラウンド圧勝! しかし勝負はここから!」という文言である。
このあたりになるとふつふつと怒りがこみ上げてくる。なんのつもりだろうか。スポーツ紙の見出しでもあるまいし。状況がまるでわからない私たちにとって、この途切れ途切れの情報はまったくもって神経を逆撫でる。
「揃いも揃って! だいたい何のためにみきくんまで送り込んだと思ってる! もっと丁寧に現場レポしろって! 帰ってきたら一週間弁当抜きにしてやる!」
新婚ふたばの言葉に「まあまあ」となだめながらも、私とひなこは組んだ足をカタカタと動かしている。これは私たちの共通の悪癖で、気付いたときにはなるべく直そうとお互いに注意しあっているのだが、イライラが募るとどうも出てしまう。今日はお互い注意し合うこともなく普段であればカタカタで済むのだがガタガタとかなり強めに出ている。
お互いに目が合い、思わず舌を出して足を組み直したとき、床にトレイを置き、そこに収めていた件の茶碗がカタカタと動き出した。まるで命が宿ったかのようにカタカタと揺れている。ついさっき、盛り付けてやったドライフードが跳ねて溢れるほどの揺れである。
逢摩堂に来てから随分と不思議な事も経験してきたが、不気味だと感じたのはこれが初めてだった。
ひなことふたばがカニ歩きで私のもとにやってくる。三人で顔を見合わせ、次に私たちは悲鳴を上げて咲良さんのもとへ飛んでいった。なぜか「お母さーん!」と叫びながら。そして咲良さんの絵にしがみつき、母さん、怖いよぉ、と叫んだのだった。
「母さん怖いよ」
「母さんどうしよう」
「母さん教えて」
「母さん助けて」
「母さん!」
私たちはおよそ思いつく限りの母に甘える言葉を並び立てた。それは幼い頃からずっと封印してきた言葉だったかもしれない。
その言葉を出すたびに心の中の不安が一つずつ溶けていくような気がする。
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