逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

四月馬鹿.9

 その空気に水を差すかのように御大尽が一言、


「この茶碗は本来私たちの祖国のもの。返していただきたい」


 と言い放ったそうだ。はじめこそ冗談だと皆笑っていたらしい。しかし目が真剣である。


「どういうことですかな? 私はその持ち主から買い取ったのですよ。まあ、ほんの少し安くはしていただきましたがね。今の言葉、まったく解せませんな」


 柊氏も軽く受け流したらしい。しかし御大尽は尚も言ったのだという。


「あんたに渡った経緯など私の知ったことではない。その茶碗は我が国の宝となるべきものなのだから返していただきたい」


 元々はひなこが作った偽茶碗であることもすっかり忘れ、私たちは「どういうこと? どういう理屈?」と憤慨していた。


 返せとはなんだ、失礼ではないか――と当然現場でもその声はあがり、全員が柊氏を支持したのは当然の流れであろう。すると御大尽は


「よかろう。でも私は必ず、必ず取り返す。なんとしても取り返す。首を洗って待っとらっしゃい」


 と一言残し、その場を去ったということだった。


「と、ここまでが第一、第二ラウンドらしいです」


「で、父さんたちは? 父さんたちは無事なんだよね?」


 その問いにふたばが苦虫を噛み潰した表情になった。


「はい、無事も無事。これから柊さんの慰労会で綺麗どころと二次会だそうです」


「……ええ? それって必要?」


 思わず声が出る私とひなこに「同じこと言いました!」とふたばは奮然と叫び、母さーん! と再び咲良さんの部屋へと足音荒く飛んでいった。


 その震動にまたカタカタと鳴りだした茶碗に、残された私たちは「おだまり!」と怒鳴りつけると、猫も茶碗も飛び上がった。

 

 

 

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