四月馬鹿.10
「うーん、この屁理屈は理解不能だ」
飛び上がった猫と茶碗がそれぞれ大人しくなったころ、私とひなこは溜息をついた。気になるのは「経緯はどうでもいい。我が国で作ったものは我が国のものだ」というその不可思議な価値観だ。
それが正しいのであれば件の茶碗は正当な返還理由があることになる。私たちの信念である「私たち以上にふさわしい持ち主が現れるのなら……」という項目にレ点がつくことになる。
そんなことに頭を悩ませていた頃、上京組の方もいよいよ第三ラウンドのゴングが鳴ろうとしていた。
***
廊下が慌ただしい。遠くから女将のものらしい声で「もし、お客様、困ります」という必死の声が聞こえる。それと同時に聞こえてくる足音は複数ある。
「おいでなすったね」
柊氏とボスはそれぞれ片手に持った盃を空けるとにやりと笑い、最所と京念はごくりと唾を飲んだ。
柊氏とボスの間にはやや上背があるが、美しいお姐さんが座っている。お姐さんのおつきなのだろうか、こちらは芸と愛嬌で売っているのだろう肥りじしの年増の方は三味線を持っている。こちらの二人は落ち着き払ったもので、このようなシーンにも慣れているのだろう。
ばたばたと響く足音は部屋の前で止まり、入らせてもらいますよ――とドスの利いた声と共に襖が開いた。
「申し訳ございません、お止めしたのですが」
女将がオロオロと声を震わせた。
「いや、なに。知り合いですよ。大丈夫です、お気になさらず」
柊氏がゆったりと声を掛け、荒々しく現れた面々に
「これはこれは――いささか無粋なご登場ですな。まあ、とりあえずお入りになられたら」
さすが海千山千の修羅場を潜ってきただけのことはある。その様子はまったく悠然としたものだった。
「――この連中は?」
御大尽が立ったまま問いかける。
柊氏はさっと顔色を改めた。
「だまらっしゃい!」
この細身のじいさんから、この大音声がよく出るものだという迫力と凄みで
「まずは座るがよろしかろう」
有無を言わさぬ物言いである。その圧倒的な態度に、かの人々は下座にとりあえず座った。
「名乗るはそちらが先であろう」
その眼光の鋭さに、御大尽の用心棒と思しき二人連れは思わず土下座の態勢になる。緊迫した空気がその間には流れた。
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