逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

四月馬鹿.11

「やだぁ、会長ったらかっこいい!」


「すてき! 惚れ惚れしちゃう!」


 その場の空気にはいささか場違いな嬌声が上がった。


「さあさあ、こんな場所で野暮は禁物。お入りになって。もっとずずいと」


「こちら、どこの国のお方?」


「はじめましてぇ、渋くてもう、男前ねぇ」


「まあまあ、とりあえず一献一献。仲直り。ねえ、この場は私たちに免じて日本のおもてなしを楽しんでくださいましな」


 ベテランのお姐さんにかかればかくも他愛なくなるものか。その場の空気は一変していた。


「あ、お酒もっと追加――ねえ、新しくいらしたお兄さんたちも足崩して、さあさあ」
 そのまま廊下に向かって「こちらお料理追加でお願いしまぁす」と声を上げる。


「こらこらるり奴、まち奴。こちら大切な用事でお越しになったに違いないぞ」


 柊氏が笑う。


「あらぁ。男の仕事場は別の場所になさってぇ。ここはあたしたちの仕事場。あたしたちが仕切る場所!」


「こらこら」


 二人のお姐さん方はある意味乱入してきたも等しい三人の新客に興味津々らしく、つきっきりのご接待を繰り広げている。


 二人の用心棒らしき男たちはいかにもなサングラス姿だったが、もうとっくに二人の手にかかってそのサングラスは外されている。御大尽も渋い顔だったのだが、徐々に懐柔されつつあり、また、最所と京念が男芸者、太鼓持ちよろしく上手に場を盛り上げている。


 ボスも威厳を保ちつつも初対面の御大尽と骨董の話だのお座敷の遊びなど展開がかなり和やかになってきてしまった。


 そんな頃合いに、ボスがさり気なく


「あの茶碗、お気に召されたようですな」


 とまるで他人事のように話し始めた。


「なんでもお国の宝物であったとか」


 柊氏が目を細めた。この場はボスに任せようという阿吽の呼吸だ。


「そうです。ずっと探しておりました。今日ようやく見つけました」


「うむ。しかしあれは私が長く秘蔵しておったのですが、元々はある女性が所持しておったものなのです。そのこともご存知か?」


「もちろんです。私はその女性の正統な子孫ですから」


「――ほう、そうでしたか。それはそれは……」


 ボスの語り口はあくまでも穏やかである。


「良い方でした。気高く、優しく、強い方でしたわい」


「元気でおります。いつも言っています。一刻も早く返してもらいたいと」


 しばらくボスは効果的に沈黙した。


「あの茶碗は私がこちらにおられる柊さんに合法的に譲り渡したものです」


 ボスがそう言うと隣で柊が大きく頷いた。


「私どもの常識ですと、そうなると持ち主はこちらにおられる柊さんの物となるのですがな」

 

 

 

 

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