逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

4.黒猫家にて.5

「その第三倉庫の家具や調度がとても気に入りました。
で、その雰囲気をお店に使ってみたいと思うんです。
でも、なんだかその倉庫内を荒らすのは心苦しくて......とても素敵になっているので。どうでしょうか、
もしよろしかったら逢摩さんにその旨をお伝え願えませんか? 
そして似たような物をもしお持ちだったら提供していただけないか
聞いてみてもらえませんか?」
 
 最所と京念はうんうん、と頷きながら聞いている。
 
「特に……お店のシンボルになるようなちょっと大きめの物があるといいなぁと思うんです。
そのあたりも併せて先生方からお話願えないでしょうか? 
まがい物を、とも考えたのですが、あの第三倉庫を拝見したあとは
それもいかがなものかと思われて......」
 
 ことさら「倉庫」という言葉を強調して話したのは、
なんとなく本能的に「部屋」という印象を受けたことを避けるべきだと思えたからである。
 
 あの倉庫には何かわからないが、何かがある。
その「何か」に全く気付いていない、という印象をこの二人に植え付けておきたいと思ったからだ。
なぜか、今はそのほうがいいと思えたのである。
 
 わかりました――と二人は重々しく頷き、
逢摩氏に早速伝言すると約束してくれた。
 
 事は成せり――私は妙な確信めいた予感があった。
逢摩氏はきっとなんとかしてくれるだろう。
あの秘密めいた部屋をやすやすと開けた私たちに、
そしてその部屋をそのままにしておきたいという私たちに
必ず何らかの形で返してくれるはずだ。
 
「わ、もうこんな時間!」
 
 というひなこの声がきっかけとなり、私たちはこの辺りでお開きということにした。
こちらの要望は全て伝えたし、これ以上の談合は不要である。
 
 マンションの前で「じゃあまた明日」と各々別れたのだが、
その折に男性二人がそっと目配せし合ったのを私は見逃さなかった。
 
 まあいい。二人には二人の思惑があるのだろう。
しかし長い一日であった。
一昨日から今日までなんと色々なことがあったことか。
コーヒーを飲みながら所在ない時間を求人案内を見ることで潰していた一昨日が
もはや遠い昔のように思われる。
 
 自分の意志で私は新たな船へと乗り込んだ。
そしてこの船の目的港を決めるのも自分たちなのだ。
だとしたら最高のクルージングにしてみせよう。
 
 私の中の眠りかけていた野望がむくむくと目を覚ましたような気がする。
明日が本当に楽しみだ、と私は声に出して呟いた。
 
つづく
 
 

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連日暑いですなぁ。我が家の猫も溶けております……

 

 

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